死の意味

 ポールとパメラが作業していた機械に向かって慎重に進んでいく。

 その途中で檻の中に居る無慚な姿となったパメラが眼に入った。思わずポールは目を背ける。


「直視するのは辛いだろ」


 トミーはポールの肩に手を置いた。眉間に皺を寄せ、目だけを左右に泳がせているポール。


「どうして、あんなことに……ボクは一度彼女を助け出せたのに」


 殺人鬼がいつ襲ってくるかわからない。機械から少し離れた場所にある窪んだ場所で身を潜める。


「檻の中に変わった装置が見えるか?」


 トミーは説明をはじめた。

 ここに来た者は全員脳内に特殊な電極が埋め込まれていた。殺人鬼に捕らえられると、檻の中に放り込まれる。そして脳に対して天井付近にある装置から一定の刺激が送り込まれてしまうのだ。それはピリピリとした感覚らしい。

 二回まではその刺激に耐えることができる。しかし三回浴びてしまうと、脳に甚大な損傷を引き起こしてしまい、自我が崩壊。その場に崩れ落ちてしまうのだ。


 強靭な精神の持ち主ならより耐えることができるのではないのだろうか──そうポールは疑問を投げかけるが、トミーはゆっくりとかぶりを振った。


「あの装置に頭を持っていかれるから無理なんだ」


 パメラがパメラだと判別できた理由──それは着ていた服のおかげだった。床にはおびただしい血。立った状態を維持できず、無造作に転がっている身体。何度その光景を目撃しても慣れることはない。トミーもしっかりとその姿を確認する余裕はなかった。

 ポールはパメラの服と血の海だけで判断していて頭部にまで目をやってなかった。しかし、トミーの話を聞いたからといって確認しようとは思わない。惨たらしい死に姿を見たところで何かが変わるわけではないからだ。


 そっと窪みから周囲を見渡す。ポールに悪寒がないことを確かめると脱出するための機械へ辿りつく。


「残り二つって言ってましたよね」

「ああ」

「もしもここのプログラムを完成させてしまったら、殺人鬼は最後の一台に張り付いてしまうんじゃないですか?」

「幸い、その心配をする必要はない」

「え?」

「あいつには作業が完了しているかどうかの見分けがつかない。すべての機械を巡回して俺たちを葬るしかないんだ」


 その言葉とともにトミーは完了ボタンを押した。

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