周辺調査

 あの箱を目指せばいい──


 パメラの代わりに入った彼女を最短で救うにはそれが一番である。

 しかし、まっすぐに目指してしまうと、仮に檻から解放させることができたとしても安全に退く道が不明だ。途中で接敵したときが危ない。

 自分が狙われればまだいいのだが、そうとも限らない。彼女が再び放り込まれてしまうと一緒に脱出することが難しくなる。


 ポールは、此処に送り込まれたとき最初に見つけていた二階建てを目指すことにした。あそこならば周囲を確認しやすいからだ。

 常に周囲への警戒を怠らないようにしつつ、じりじりと進む。かがんだ状態は腰に負担がかかってしまうが、そうも言ってはいられない。


 草叢くさむら、大木や岩陰を利用しつつ近づいていく。

 慎重に建物内へ侵入した。土とは違って床を歩く音がやたら大きく聞こえる。もしかしたら殺人鬼の聴覚は異常に発達しているのかもしれないと思うと、安心してはいられない。


 とりあえず二階へ──


 階段を上るスピードもゆっくりだ。軋む音が木霊する。

 二階もいくつかの部屋に分けられていた。それぞれの窓から辺りを確認する。


 中央にそびえる柱に変化はない。

 もしかしたら二人が追いかけられている最中なのかもしれない。その前に気づいて隠れていることを信じたいところだ。


 仄かに灯る箱まで見通せる小部屋の窓。どうやら何かの畑らしく、背の高い植物が規則正しく並んでいた。障害物らしきものは何もない。

 腰を落とした状態なら見つかりにくいだろう。しかし、万が一見つかったときが厄介だ。奴はあのときのように斧を投げつけてくるだろう。鉈を鎌のようにして刈り取るかもしれない。


 障害物は壁際に集中していた。あそこを通るしかない。

 俵上に纏め上げられている植物もあるし、ドラム缶なども点在している。


 ビーッ!


 突然、大きな音がポールの頭上を駆けていった。

 もしかして作業が完了したのだろうかと例の柱を確認しても変化はない。今にも折れそうで、不機嫌な様子だった。

 改めて彼女が居る方向に目を向ける。灯っている色が変化していた。


 長い間檻の中に入っていたからだろう。第二段階に移行したのかもしれない。

 あまり時間がないことにポールの顔が強張った。


 急ごう──


 小屋から出ると、畑へ足を踏み入れた。

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