夜がこれ程、似合う物語が、他にあるでしょうか?

 文体から受ける印象は、闇夜のようでした。

 それも雨。

 街灯の光も心許ない雨の闇夜を、登場人物たちが行く景色が、あまりにも鮮明に想像できてしまいます。

 会話のテンポは、まるで「雨の夜なのに、星が瞬き、月が明るい」という矛盾した、幻想的なイメージすら抱かせる程の切れ味を持っています。それは全編、どの場所を見ても、同じく感じるはずです。

 戦闘中も、そうでない時も、移動の車内でも、彼らはズバッと読者の心に切り込んでくるようなテンポでセリフを口にしてくれます。

 登場人物から受ける印象は、各話の題名にも出てくる通り「剣客」なのです。

 剣聖ではない。

 剣豪でもない。

 そんなものは「ご大層な肩書きだ」と笑ってしまいたくなる程、この「剣客」という言葉に、強い魅力を感じてしまう、これ程の存在感を出す登場人物を、私は他に知りません。

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