乱暴と待機/本谷有希子

 お兄ちゃんと仮想妹の話です。


 って言って喜ぶ層がこの本のメインターゲットじゃないのが意地の悪いところだなぁ。妹ものってようは可愛くて若くて自分よりも物を知らない女が家にいるところがいいんでしょ。すぐ触れるところにいる若くて可愛くて無知な俺の女。という女性観測者からのえげつない追及です。


 わざとらしくて、可愛くて、痛くて、必死で、誰のことも傷つけたくないのに誰からも傷つけられてしまう妹役、菜々瀬。絶対女の子に嫌われるという特技を持っている。


 彼女に自らを「お兄ちゃん」と呼ばせている同居人英則。でも本物の兄妹じゃないんだよ。さいきょうの復讐のために同居しているんだよ。英則は菜々瀬を断罪したがっていて、菜々瀬は裁きを待っている。無視するなどの意地悪に加え、寝る前にお笑いのネタを考えたりしながら。意味わからんでしょ? 二人の意味わからん日常に英則の同僚とその彼女あずさが首を突っ込んだことからすべては始まる。







 男性向けエロ同人誌に女性作家がアンサーを書いたらこうなった。みたいなところがあり、表紙のイラストの菜々瀬ちゃんが可愛いですが元は舞台の脚本だったらしく、映画化もされており、美波さんが菜々瀬を演じられているという。え、実写でこれをやって大丈夫なんですか? 美波さんの美しさをもってしても、無理では? 菜々瀬ちゃん、という心配。


 私は菜々瀬が実家に電話を入れるところが好きです。わかる。



 


 可愛くて都合のいい女。っていう創作上のキャラクターはいろんなところで見るんだけど実際の女というのはそれはもうめんどくさいじゃないですか? 男も女も老いも若きもなく人間っていうのはそれはもうめんどくさい。


 エロ本ってエロいことして終わりなわけですけど実際の世界にはそのあとがまだあって、汚した部屋は片づけなきゃいけないし犯罪行為には訴訟や刑罰を負うリスクがあるし性行為には妊娠のリスクがあるわけですよね。英則はそのリスクをめちゃくちゃ犯しまくったうえでリスクを認知したくないという究極のめんどくさい男……。女は拉致るが性交渉はしない。女の性交渉は覗くが干渉はしない。なんという……なんという……はぁ?


 本作のふたりはそのめんどくささをなんとか排除した二次元の人間たろうと細心の注意を払い暮らしているわけですが、めんどくさいことが分かったうえでのめんどくさくない演技を続けるというメタな生活はふたりのめんどくささゆえにどかーんと破滅し、「面倒くさくても大丈夫って言えなくて、ごめんな」という英則のセリフでクライマックスを迎える。


 もうハッピーエンドでいいです、ふたりで仲良くしてください……ただし俺の見えないところで。というあずさの気持ちがめっちゃわかる。犬の夢が意味わかんなかったですけど、そういえば『あの子の考えることは変』でも犬の夢ってセックスの、って描写がある。ほんとに彼は菜々瀬とセックスしたいだけだったのか、それとも今まで殺してきた犬の啓示だったのか。わからないまま。


 めんどくさい、愛。愛もしくはパラサイト。依存。コントラスト。閃光弾。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る