十六章からなる自殺した息子と母親の対話。

リーにとって16歳の息子の死は大きな出来事だったに違いない。

早すぎる死は周囲に十分すぎる余波を残す。

両親にはことさら深い傷を残すだろう。

リーの普段の作品からわかるように、彼女の短編は完璧だ。

だけどこの物語は、完璧に書かれてはいない。

息子との対話は突拍子もなく、脈絡もなく、不意に切断され、母の意思と息子の根気によって続けられる。そこに寓話性や必然性を見出すのはばかげているだろう。

とはいえこの物語はあくまでもフィクションだ。

物語ることは創作や寓意と無縁ではいられない。

語り手が物語ることの一方的な権力に意識的であることはその場所にとってとても恵まれたことだ。

物語の中で完璧になりたがっているのは息子の方で、母親は息子の知性を恐れている。リーはこの物語を完璧に描かなかった。彼女は完璧主義を放棄してこの作品を世に出した。そのことが彼女の心の裡を物語ってくれているのではないか。

彼女は息子の死からなにも学ばない。癒されたりもしない。ただ、息子が死んだという事実とともに彼女の人生は続いていく。時間や記憶は切断され、巻き戻され、フラッシュバックのように、日常に常に混線する。私たちはリーがたどたどしく物語る痕跡から、彼女の痛みや恐れ、ためらいや踏みとどまった気配を察知することができる。死者の持つ沈黙は何物にも侵しがたい最後の聖域だ。残されたものは彼らの言葉を代弁することなどできない。それでもリーは息子のニコライと語ることを望む。わたしが親ならきっとそうするだろう。リーみたいに。なんども虚空に向かって話しかける。家の中の息子の痕跡から過去の記憶を未練がましく何度も何度も再生する。

生きている限り物語は常に母親の手の中にある。

息子はもういない。物語の主導者は、永遠に望む答えを得ることができない。

だから考え続ける。問い続ける。それが死者と生きるたったひとつの道筋だから。