恐るべき子供たち/コクトー
恐るべき子供たち
コクトー作 鈴木力衛訳 岩波文庫
読んだー。面白かった。機能不全家族と破滅的なメロドラマ。
第一部は十四歳の少年たちが暴力と信頼と侮蔑の間で揺れ動くさまが克明に描かれていて、青春小説の趣。ひ弱な少年ポールは屈強なジャルダロスに憧れを抱いていた。ポールを見守るジェラール。そして横暴で世話焼きなポールの姉エリザベート。エリザベートとポールの母親は放蕩で病弱な父に財産を奪われてアルコールに溺れていた。第一次大戦の後の退廃的な雰囲気に克明に描かれる機能不全家族とその周りの人たち。
とにかく人物の描写が細かい。あるある、と思えるような説得力のあるキャラクター、背景、行動。
ありとあらゆることが克明に描かれている中で、一つだけ不鮮明な部分があり、そこだけが不気味に浮かび上がっている。
ポールが雪玉に倒れる。母親が死ぬ。姉弟が孤児になる。が。医師が生活費を援助する。
第二部は姉、弟、その友人たちの交差する四角関係。死と破滅の匂いが濃くなる。姉が富豪と婚約する。富豪が死ぬ。遺産が転がり込む。退廃的な青年期のモラトリアムが描かれている。彼らが麻薬を必要としないのは血液の中にそれが流れているから。というのは言いえて妙だと思った。
愛し方がわからずにぶつかり合って消耗していくしかない、相手を傷つける、甘やかして面倒を見る、そのふたつのパターンの間で瞬間瞬間に移り変わる不安定な愛情を描いたのはさすが。
メロドラマに落ち着くかと思ったら、最後まで悲劇を全うしていて美しかった。
氷と火。エリザベートの少女時代を表した言葉だ。
退廃と破滅を自ら望んでいるようでも、どうにかそこから抜け出すべくあがいているようでもあった、彼女の複雑さが最も魅力的に見えた。生まれ持った、あるいは環境に促進された彼女の両極端な気性が、物語に色どりを与えている。ポールの暗さや激しさ、エリザベートの激しく冷淡な気性、奴隷のように付き従うジュラール。エリザベートの賢さに惹かれ、ポールの姿に恋患うアガート。それぞれの欠落を、鏡写しに埋めあうように、お互いを求めあうアンファン・テリブル。
わたしは色々な論文を読んだりして、愛着形成の不完全な子供の行動パターンを知ったのだけど、そのような研究がなされる前にまず優れた作家は事実をつかみ取ることができるのだ、と感じ入った。
大きな戦争の後では国家レベルで家族的な機能が損なわれる。
機能不全があちこちで起こる。
それが癒えるために三世代は必要なのではないか。最近の毒親ブームなどを見ていると思うのだ。田房永子先生も、難波ユカリ先生も、親を遮断する段階から、徐々に受け入れるムーブに入られているように見える。その時に間を取りなすのが三世代目、四世代目の、新世代の子供たち。わたしたちはいざ相手の立場になって初めて、理解したり想像を巡らせたり改善したり、できるのではないか。
恐るべき子供たちとは、第三、第四の子どもたちにに出会えなかった永遠の子どものことを言うのだと思った。
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