第16話 図書館のユメ

もう一度ボードを確認したが、百位以内にはキツキツ以外知った名前はない。ここまで条件が揃っても信じられない。どうなっているんだ。フブキにも確認をとったが、個人情報は得られないとのこと。僕とミルクは、しばらくブック町に止まることにした。

しばらく止まってわかったことは、この町の人々は闘技場を良く思っていない傾向が強いことだ。図書館で知識を高めることこそが、平和であると思っている。金も稼げるし、犯罪も少なくなる……か。しかし、図書館の旧式と新型では、記憶力一つとっても二倍以上の差がある。これはこれで、平和とは呼びにくい。

直接戦っていないが、明らかに扱いが異なる。そしてキオラは、そのことを気にしている。キツキツのことも気になるが、今の情報ではなんとも言えないので、フブキの成人について考えることにした。今のところはな。

僕とミルクは、図書館についてよく解っていない。早くも友人と呼べるぐらいになったフブキ。彼は、大地とキオラに何を見た? 自分はそれでいいのか、フブキよ。今は楽しいかも知れないが。

しかし、成人になったら大地とキオラは何を思う? フブキという存在を少しずつ忘れていくのだろうか? それとも、悲しみ続けるのか。ミルクが僕に伝える。

「フブキが忘れられることも、大地とキオラが悲しみ続けることも、私は勇者として避けたい。しかし大岩、フブキを信じてみないか」

「解った」

と、僕は答えた。

僕は、フブキと二人で話せるタイミングを見逃さない。

「フブキはもうすぐ成人だろう。悔いは残らないか、言葉を失っても。何よりもフブキ自身がな」

フブキは目を閉じて答える。

「最近俺は、図書館のことと闘技場のことを思い出している。思い出す時間なら、成人してから腐るほどあるさ。だが、今思い出したいんだ。俺の本は楽しいのか? 求めるものはそれだけだ。多くの人じゃなくていいから。そう思って欲しい」

「そうか」

僕は、それ以上触れることは出来なかった。

勇者ミルクなら、何とかしてくれる。僕は、ミルクとフブキを信じることしか出来ないかも知れない。フブキは大地に、ユメをキオラに図書館の考えの一例を、言葉でなく足跡で見せたいのだろうな。図書館は成人すると足を失う。それがフブキの道だから。僕達は、闘技場で凌ぎを削る日々を過ごした。フブキ成人の日は近い。これでいいんだな、フブキ。

彼は旧式の図書館だ。性能も平均的。何かは解らないけど、スペック以上の存在感を放つ不思議なヤツだ。だからこそ、大地とキオラに慕われているのだろう。そして、何事も無かったように、フブキは真図書館となる。フブキは、百位以内にわずかに届かなかった。今では、どこにでも有りそうな図書館だ。

僕とミルクは、闘技場で百五十位前後まで上がったよ。新図書館ということで、客入りも良かった。しかし、旧式で性能もそれほどでもなく、更に本のジャンルが偏っている。そのうち、一日に一人か二人入る程度になってしまった。大地がつぶやく。

「みんな、フブキさんを忘れていくのかな。俺は、本を読んでいても楽しいと思えないよ」

キオラも続く。

「やっぱりフブキさんの存在を直に感じたい」

ミルクは顔色ひとつ変えずに、くつろいでいる。

僕は問う。

「まだのようだな」

「ミルクには感じるものがあると?」

僕の問いにミルクは答えなかった。今の大地とキオラが見ているのは、何処にでもある図書館ということだ。何時か気が付くのだろう、フブキの歩いた道にな。フブキは、ユメも成人となった図書館も、何度も見てきたんだよ。だからこそ、ここに至るまで精一杯楽しんだ。答えなんかない。フブキが選択したのがそれ。正解も無いさ。

大地は、遂にフブキの本を読むのを止めた。

「大地はフブキさんのこと、忘れてしまうんだね」

「解らない」

キオラの問いに、大地はそう答えた。キオラは本を読み、思い出に浸る。大地はキオラに聞く。

「その本は楽しいか? 俺はフブキさんを追う」

キオラはつぶやく。

「フブキさんは、そうしたかったんだ」

幼年期と成人期は違うけれど。会話は今は出来ないけれど。フブキは確かに今も存在して……。しかし、過去しか二人には見えないかも知れない。

だけど、大地とキオラは悲しむことを止めた。楽しく本が読める日が来ることを信じて。今はそれが限界かもな。フブキよ、今どんなユメを見ている? 答えは僕記憶の中にある。僕とミルクは、大地とキオラをゆっくりと追いかけた。

声が聞こえる。

「よう、キオラ。フブキとか言う低レベルの図書館に付き合って、時間を無駄にしたようだな。俺はキツキツ様について行く」

「あなたはセンロ。無駄なんかじゃないです」

と、キオラ。キオラによると、センロは同世代の図書館で、キオラより評価が低いことを気にしていたらしい。

センロは宣言する。

「キオラの時代は終わったんだよ。どっかの大陸で流行った、『リセットボタン』は最強の兵器という言葉、どうやら少し違うようだ。キツキツ様はそれを改良出来る。そんな大げさなものにしなくても、狭い範囲のリセットボタン、ピンリセの方が優秀である」

センロは言いたいことを言って、去っていく。ピンポイントリセット、その手があったか。本物ではないと思うが、キツキツとやらは気づいた。ミルクも言う。

「これは厄介だ」

完全に世界をリセットせずに、コンパクトにリセットする。そうすることで、世界を壊さず小さなことを無かったことに出来るということ。小さいといったが、積み重ねれば自由自在なほど強力。この大陸のキツキツは、倒さねばならないようだな。

ミルクも同じようなことを考えていたみたいだな。

「大岩、闘技場で情報を集めよう。この特殊ルールで勝ち上がるしか、この町のキツキツに辿り着けない」

「僕もそうしようとしていたところだ」

そして、四人で闘技場へと向かう。カエル大陸のこと、旅してきたことを話していると、大地とキオラも興味を持ち始めた。大地は考える。

「リセットボタンか。そのキツキツって人が、そんな危険なものを手にしようとしていることはあり得ない」

「ピンポイントの方は、いいことにも悪いことにも使えそうですね」

と、キオラは分析する。

ミルクは問う。

「キツキツはそのいいこととやらに、使おうというのか? 一年以上会っていない。カエル大陸で、何が起きているか解らない」

「いいことだろうと、リセットするのは気に入らねえな」

と、僕は意見する。キオラはミルクの話を聞きたがる。

「売る者について、もっと知りたい。大岩さんのお姉さんのこともっと知りたい。伝説の魔法使いウシダさんの魔法についてもです」

「いい図書館になりそうだ」

とミルクは、予想外だが的を得たキオラの言葉に苦渋する。

キオラの好奇心は高性能の証かもな。えーと、闘技場に辿り着いたが、相手は二十二位のヤツ。このルールでは、僕より格上だ。ミルクはこのルールを研究中。僕はレートを意識して、データソードを叩き込む。しかし、僕の作戦は読まれていた。

同じことを考えたヤツはたくさんいるってかよ。レートを意識することで、動きが単調になるということだな。僕は追い詰められた。一発逆転を狙えるレートで、僕は大技を繰り出す。しかし、相手はよけない。決まったか? やはりスキがでかすぎるし、追いつめられると、大技ってのは単純過ぎた。

よける体勢にもならず、相手はぎりぎりで防ぐ。こちらは当然隙だらけ。そして、決着は着いた。ミルクが分析する。

「レートを意識するだけでは勝てないのか。奥が深い。ならば、どんな手段があるだろうな」

「ミルクの動きをチェックしておく」

僕の言葉にミルクはうなずいた。

ミルクの相手は二十七位だ。順位で実力が百パーセント決まるわけではない。とはいえ、目安にはなる。今度もミルクより明らかに格上だ。しかし、ミルクはさすがにゲーマーだ。駆け引きを駆使して戦う。身体能力ではミルクの方が敵より優れているのに、動きが違う。これが、場数を踏んでいるかどうかの差なのだろう。レートを覚えるのは逆効果と判断し、ミルクは作戦を変更する。レートは最低限に止める。

しかし、相手の戦法がミルクを上回る。敵はセオリーを知っている。ここでの戦いに慣れていない僕達に対しては、セオリー通りで十分なのだ。ミルクでも、このクラスでは通用しなかったか。僕はミルクに感想を言う。

「ミルクの発想は天才的だと思うが、それは基本を知ったうえで生きてくるようだな」

「大岩もそう思うか」

と、ミルク。

「なら、答えはひとつ!」

と、大地が号令をかける。

向かう先は、フブキ図書館。体力では、フブキはそれほどでもなかった。しかし、僕達はそれをひっくり返すだけの作戦を持っている。研究成果とやらを見せて貰おうか。

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