第13話 求める限り想いはウラギル
僕はミルクのところへ、とにかく急ぐ。巨大な天使とやらは、完成しているだろうか?キツキツとミルクの想いをのせた最強の剣、データソードでヘルを切り裂いて見せるよ。その場にキツキツとミルクの二人は居ないけれど。ゲーム世界よ、さらば。僕は決着を着けるんだ。
妖精ヘルは満足したさ。だけど、僕は納得出来ない。例えこの星の求めたものだとしても、僕は行くよ。とにかくリサ姉さんは、きっと知識の果てで待っていてくれる。何時でも会えるんだよね? 僕の心の中でなら。ミルクの魔法とやらで、僕は再びカエル暦五百二十二年へと辿り着く。
つまりは現実世界。ヘルはどこで何をしている? まあ、どうでもいいさ、仕留めるから。僕がやるから。他の誰でもなく。ミルクの声が微かに聞こえる。
「もう少しだ。この瞬間だけは誰にも邪魔させはしない!」
独り言かよ。恐らく、テレビゲームのエンディングが近いのだろう。僕は少しの間、おとなしくしていよう。
しかし、ミルクはラストシーンの余韻に浸っている。いつ出ていけばいい? 長いぞ。僕は我慢できずに、ミルクに声をかける。
「テメーは、何時寝てんだよ!」
「大岩か。それは必要のないものだよ。天使君なら完成は近い。じい様は今、ゲームショップにいると思われる」
「ウシダさんをこき使うな、ミルク」
「で、妖精ヘルを倒したあと、大岩はどうするのだろうな。私は、今度こそ勇者へとクラスチェンジするよ。あと、データソードの雰囲気が変わったな。勘違いするなと言っても、今の大岩には理解出来ないか」
と、ミルクはつぶやく。
何のことだか解らないが、今は待つしかない。ミルクによるとデータソードは僕の腕力に比例するタイプに、変化しているらしいぞ。このデータソードは、みんなの想いがのせられているはず。
「行こう、ミルク」
と、僕は言ったのだが、ミルクはゲーム機に再びスイッチを入れた。何時まで待てばいいのやら……。
ところで、巨大な天使とやらは何処にある? 巨大というぐらいだから目立ちそうだがな。まさか、これか? 巨大な船に天使が描かれていた。僕はミルクに尋ねる。
「この船は空を飛ぶのか? 天使の絵はそれを意味していると」
ミルクはあっさり答えた。
「大岩よ、その通りだ。ユウさんというイラストレーターの絵は、まさに空を飛んだ気分になれるよ。勇者のデザインもしたことのある人だ」
そこで、僕は突っ込む。
「気分だけかよ」
「何を言っているのだ。海を堪能せずに空を飛べると思うなよ、大岩。あと、ゲームは何円までだ?」
ミルクの質問に答えるのも、バカらしくなってきたぞ。
「ミルクももういい大人だろ。好きなだけ持っていけばいい」
「船が沈むぞ」
「大丈夫だよ、多分」
僕も少し自信がない。そして僕は、大分前からの違和感について考える。
そして、僕はミルクに対し言い切った。
「ミルクは勇者になることが怖いのだろう?」
すると、ミルクは少し機嫌を悪くする。
「知識の果てに行かなければ、勇者の証はない。確かに大岩の言う通りだ。『カミナリの剣』は、売る者の技術が使われている」
「どういうことだ?」
僕は、ミルクの言いたいことが解らない。ミルクは言う。
「体感して貰おうか、私の魔法をな」
少しの時間をおき、僕は仮想空間は辿り着く。ミルクの技術によるものだ。声が聞こえてくる。
「じい様、勇者は凄いんだよ。どんな強敵も困難も打ち破れるんだよ。勇者様は格好いいな」
「ほう、私には良く解らないが、ミルクはその勇者様のお嫁さんになりたいのかい?」
「私は結婚はしたくないなあ。縛られるだけだし。だから、私自身が勇者になれば、自分を守れるし、かっこ良くもなれるんだ」
「ミルクがそこまで言うなら、ゲームの世界は楽園なのだろうな」
「うん、そうだよ」
この会話は、幼いミルクと今より少し若いウシダさんだろうか。はっきりとは解らない。だが、こんな会話をするのは、他に思い当たらなかった。ウシダさんは悩み続ける。ミルクは、両親のことを良く思っていないのだ。売る者の一員と化した父親。ミルクの相手をしないアイドルの母親。二人は何時もミルクを置いてきぼりだ。ウシダさんが切り出す。
「ミルクは何が欲しい? 明日は、勇者様の記念日なのだろう?」
「ゲームソフト!」
と、ミルクは即答した。
しかし、ウシダさんはめげない。そして続ける。
「ミルクは剣術に興味はないかい? 勇者様の剣さばきも凄いのだったね」
「剣術かあ。いいかも」
と、ミルクは食い付く。ウシダさんは、目的としていた『カミナリの剣』をラッピングし、ミルクに渡す。
そして、ウシダさんは説明する。
「この剣は、私とミルクの両親が力を合わせて作ったものだ。性能は私が保証する。この剣の名はカミナリの剣という。だがその名はそのうち意味を無くすだろう。『勇者の剣』へと名を変える日が来る。その日、ミルクは私達を許してくれないだろうか。私達を勇者に関わった者として、認めてはくれないだろうか」
ミルクはニッコリと笑い、こう言った。
「じい様を伝説にしてみせるよ」
……ここで空間は元に戻る。ミルクは僕に言う。
「こういうことだ。私には、勇者の証が遥か遠くに見える。本当に私は勇者の器なのか。物語の主人公と同じ選択が出来るのか。そしてそれは、作りものに過ぎないのではないか。私は怖いよ、大岩」
恐らく初めてだろう、ミルクは僕に向かって弱音を吐いた。
それでも、ミルクはユメに向かう。恐怖に打ち勝ち、剣を心に手にする日まで。僕もたどり着かなくてはならない。リサ姉さんは何を望む? 僕は姉さんのところへ行きたいよう。そこが僕の『知識のハテ』だと信じて。求める、僕は求め続けるんだよ。
ミルクはニヤリ。
「出発だー、大岩! 船旅を楽しむぞ。大岩の海パンも用意してある」
「いや、ヘルを倒す!」
「つまらんな」
と、ミルク。確かに、海の旅も悪くない。僕はミルクに軽く冗談を言う。
「新婚旅行のようだ」
「そうかもな」
しかし、ミルクは僕の冗談には乗って来なかった。
妖精ヘルは何処にいる? 僕達は、そこに向かっているはずなのだが、操縦はミルクに任せている。観光名所を何故か回っているような気がするぞ。ミルクは、外に出たかったのかもしれないな。妖精ヘルを倒すためには、ミルクのモチベーションも重要だし、任せるとしよう。
そうしている間に、船は、とある島へと辿り着く。すると、何処からか声が聞こえる。恐らくヘルだろう。
「私の空洞へようこそ。残念です、大岩さん。私は、あなたとは喧嘩などしたくないですわ」
「ふざけるなー!」
僕は、ヘルに向かって飛び出していたようだ。ヘルにダメージを与えられるのは、確か頭部だけだったな。いくぜ、データソード。そして、ミルクも続く。
「イカヅチの魔法だ」
そして、戦いが始まった。
だが、ヘルの頭部にクリーンヒットは生まれない。こちらの動きを完全に読まれている。ヘルは言う。「リサさんは、本当にこんなことを求めているのでしょうか?」
「黙れ! クズがー」
と、僕は叫ぶ。ヘルは本気を出していない。ならば、チャンスだ。ミルクが驚いている。
「レート五百パーセントの腕力をもってしても、ヘルは砕けないのか! 大誤算だよ」
ミルクでも読めなかったてのか。
この妖精ヘルは、それほどに強いのか。不意打ちとはいえ、あの姉さんを殺したんだ。強くて当たり前だよ。それでも、僕は戦う! ん? ミルクの様子がおかしい。
「大岩、どんなに求めてもリサは、大岩の安全を最優先するだろう。求めれば求めるほど、リサは応えてはくれないよ、リサはヘルを倒すことを望んではいない。要は、データソードが守りに徹するということ。刃は今、折られた。それをリサの裏切りと勘違いするなよ」
「そんなはずはない。それとも僕は、冷静さを失っているのか?」
僕は想いと願いについて考える。ヘルも決着を求めてはいないようだ。戦えば戦うほど、空しさがこみ上げる。知識の果ては楽園じゃないのかよ。
何故そこにリサ姉さんはいない? こんなにも僕があなたを求めているというのに。姉さんは僕にもう会いたくはないのかい? 誰もそんな質問には答えてくれないよ。姉さんの求めることをすれば、会えるのかい? それが何か解らないから、僕はヘルの弱点を狙い撃つ。レートは四百パーセントに下がった。しかし、バリアは強力になったぞ。僕はまだ戦える。
ミルクの剣も、ヘルを貫けない。これが、この星ヘルの力かよ。クリーンヒットはまだない。いけー、これならどうだ! 手応えありだ。だが、ヘルは余裕を解きはしない。僕は、とんでもない相手に挑んでいるのかもしれない、ミルクをも巻き込んで……。
ヘルは悲しげな瞳で言う。
「リサさんの想いは、大岩さんには届かないのですね。死人にくちなしとは言いますが、あなたは取り返しのつかないことを、しようとしているのです。リサさんは、こんなことを求めるはずはないですよね」
「黙れー、ヘル!」
僕は馬鹿のひとつ覚えを繰り返す。何時か効果が出ると信じてな。
ミルクは考える。
「勇者はどんな選択をするのだろうな。それが解らないようでは、私は知識の果てへ辿り着けない」
そして、カミナリの剣を振りかざす。ところでちょっと待てよ。そもそも知識の果てとは何なのだ? 誰が言い始めた?
僕が初めて聞いたのは、確かクルミ! そこで待っていると、彼女は言い残した。そして、そこにあるものは後悔のみ。今回もそうなのだろうか? 運命など切り裂いてみせるさ。いくぜ、ヘル。
レートはどんどん下がっていく。僕は何を信じればいい? 神などいない。その時、イカヅチをまとったミルクの剣は、ヘルの頭部を貫く。ヘルは笑い出す。
「ウフフフ。私は、世界を救う勇者なら歓迎しますよ、ミルクさん」
「キサマが世界の中心と思うな、ヘル!」
と、ミルクはチャンスとばかりに攻める。レートは上がらないのか?
戦いは続くが、決着が着くことはない。姉さんは何を求める? 解らないよ。一方通行だよ。その時、通信機に反応が出る。このナンバーは……。
「キツキツさんですよ。出てあげたらどうです。リサさんと仲を深めていたキツキツさんなら、ヒントをくれるかもしれません」
と、ヘル。僕は通信に応じる。
キツキツは僕に語る。
「俺と虹のビームを思い出してくれ、大岩。クルミは知識を求めて旅立った。俺達の絆は、リサさんにも通じているさ。だが、大岩は求めることを変えた方がいい。リサさんは、まだ大岩にこだわっているんだよ。心配はいらないっていう一撃をヘルに叩き込め!」
「キツキツ……解ったよ」
僕の心に炎が宿る。虹のビームはデータソードの糧となって、炎をまとい、僕の一撃をヘルの頭部へと叩き込む。
「私がいなくても、コンパスとマップと自らの足はあるな、ミルク」
「任せろー、リサー!」
姉さんのカセットテープは遂に壊れた。今までありがとう、リサ姉さん。だけど僕は、あなたのいない世界で、どう生きたらいいのか解らない。僕の知識の果ては何処にある? もう、どうしたらいいか解らないけれど、不安は少し薄らいだよ。
ヘルはからかうように言った。
「私の負けではいけませんか、大岩さん。あなた達の未来を、私は届けたいのです」
「受け取ってやるよ、受け取ってやるよ、ヘル。妖精ヘル、ナビ。僕は君から貰うものはもうない。記憶の奥底に沈める」
としている僕は決意をあらためる。
この戦いは終わったんだ。僕はさ迷う。マップもコンパスもリサ姉さんに委ねていた。僕は僕なりに歩んで行くよ。ミルクがこちらに向かって宣言する。
「知識の果てでまた会おう。その時の私が勇者になり、世界を救っていても驚くなよ」
「さよならだな、ミルク」
「とりあえずだ。私は知識の果てで大岩を待っている。そこで再び会おう」
「了解」
僕達は道を切り開いて行くんだ。また会おうぜ。
私は再び妖精ヘルと名乗ります。リサさんの最後の想いもまた、大岩さんの幸せでした。リサさんはデータソードに異変を起こし、大岩さんを正気に戻した。カセットテープは粉々です。リサさんは私を救ってくれた。これから大岩さん達は何を目指すのでしょう?
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