第2話 檻という名の自由

時はカエル暦五百二十二年。僕の名は大岩で、十四歳らしい。でも、はっきりとは解らないんだよ。何故だろう? そんな興味すら僕はもう失ってしまった。ヘルの声が聞こえる。

「大岩さん、主、売る者からの伝言です。戦いで疲れたなら、自由をやるとのこと」

「了解」

と、僕は適当に返事をする。ヘルは妖精らしく、身長は六十センチくらいしかない。

まあ、僕とは関係ない。僕は、我らが神、売る者に従っていればいいんだ。僕達は昔から売る者に仕えてきた。何時からだったかははっきりしないが、幼い頃からだ。僕の最初の記憶だ。理由なんて知らない。僕が何者かもどうでもいい。

リサ姉さんも本当の姉かどうか怪しいものだ。姉さんは、売る者の強化班と販売班のトップに立つ十九歳らしい。体格はいい方ではないが、姉さんは戦闘もこなせる。

売る者とは、空人、海人そして炎人の三種族に商品を売ることを、表向きには目的としている。それは間違ってはいない……か。手に入れるべきものは金だよ。最強の兵器『リセットボタン』の完成のためには、莫大な金が必要だ。売る者は、狂ったこの世界を、真っ白な世界からやり直したいらしいな。僕はどうでもいい。従えばいいのだろう、我らが神よ。

空人、海人、炎人の三大勢力は、快適さを求め、小競合いを繰り返す。販売班がバリア系の商品を売れば、強化班が別の種族の攻撃兵器を強化する。ならば、バリアも強化しなければということになってしまうバカな人間達。単純だよ。

そして、最近の僕達戦闘班の活躍により、パワーフードが開発班によって完成される。戦闘べ班のデータが、技術へと進化したということだ。パワーフード とは、食べ物の能力を強化するフードである。ただし、才能を強化する訳ではない。能力といっても、戦闘能力だけでなく、一時的に頭の回転を良くする物だってあるさ。千円コースから百万円コースまで、大きな幅がある。

空人は海を、快適な暮らしと引き換えに汚していく。海を本拠地とする海人にとっては、たまったものじゃないだろう。売る者は、浄化グッズも揃えているが、高価である。炎人の特徴は、組織的というより個人の感情で動く者が多い。

……そして、この世界は腐っていったのだ。僕達戦闘班が何をするかといえば、謎の種族『破壊族』の駆除である。破壊本能しか破壊族は持たない。売る者にとっては、絶好の実験台だ。

そして僕は、古い付き合いのヘルに尋ねる。

「自由をくれるという話だが、自由とは何だろうなあ?」

「プレゼントだそうですね」

と、ヘルは軽く答える。プレゼントって、嫌な予感しかない。

そんな時、ヘルがリサ姉さんと通信をつなぐ。姉さんは、強化班と開発班の二つのトップに立っており、忙しいはずだ。この通信は、自由をくれるという売る者と関係があると僕は予測する。姉さんは何時も以上に真面目な表情で告げる。

「弟よ、今回の『自由』とやらは、断った方がいい。売る者という組織ではなく、一人の姉として忠告するよ。私の立場も危うくなるが、今回ばかりは仕方がない」

僕は少し考えてから返事をする。

「僕はもう失うものなんてあるものか」

「私は失うものが存在する」

「姉さんと血が繋がっているかも、怪しいもんだよ」

姉さんの答えに、僕は投げやりだ。プレゼントとやらは、ゲームソフトらしいな。僕は姉さんの忠告も無視して、そのゲームを起動させた。

僕は何故かヘルと共に、川の流れる場所へと転送されたようだ。僕はヘルに確認する。

「ここは何処だ?」

「えっ? 時はカエル暦五百十二年。約十年前ですね」

「十年前のデータで遊べってことかよ」

ヘルは言う。

「それも十年ほど。元の世界へのゲートは閉ざされた」

十年間、元の世界には戻れないってことかよ! その時、姉さんから通信が届く。

「無事か、大岩? 通信は届くか? 私の方でも調べておく。人の話はもう少ししっかり聞いてもいいだろう」

僕の左腕にはデータソード、右腕には高性能な爆弾が装着されている。戦いに疲れたならって……。結局僕は戦闘班らしい。ヘルによると、リサ姉さんがこうなることも想定して、作っておいたものらしい。

そして早速、破壊族の集団が現れる。さあ、バトルが始まるぜ。あれ? 破壊族達は仲間割れしているぞ。というか、戦闘本能を満たすためなら、仲間でも構わないってことのようだ。僕はしばらく様子をみる。ああ、こっちにも来るのかよ。見境なしだな。

僕はデータソードを広範囲に展開する。しかし、これではなかなかさばき切れない。そういう時は爆弾だ。爆弾達はどんどん補充される。姉さんがここへ転送してくれているんだ。何時ものノルマはいいのかい、姉さん?

データソードには、戦闘データがどんどん加わっていく。戦えば戦うほどに強化されていく。そしてもちろん、売る者のデータも更新されていく。売る者の目的はこれか! 売る者は、僕と姉さんを利用しやがった。姉さんの忠告を聞かなかった僕も悪い。僕はリサ姉さんを巻き込んでしまったよ。

しかし、我々の後ろには何もない。先に進むしか道はないんだ。しばらくすると、すごく怒っているキツネの亜人が、刀をこちらに向ける。こいつも破壊族か?

何だ、この速さは! 炎のビームが七連射される。飛んで来るぞ。僕はデータソードをバリア化させたが、ビームは貫通しやがった。

「なっ、何だ、その剣は! さっきより切れ味が良くなってやがる」

と、キツネが驚いている。

僕はとりあえず、パワーフード千円コースを食べる。これは安物だが、値段と効果が比例する訳ではない。キツネ人間がどう出るか、僕は様子をみる。敵はもう戦うつもりはないらしい。剣をしまった。

そして、驚いている。

「そこのガタイのいいヤツとちっこいの。パワーフードを食べても平気なのか? 俺はキツキツという者で、売る者の反乱軍のリーダーを務めている」

「僕は大岩、そしてこいつはヘルという。で、キツキツとやら、何に驚いている? そして、まともに話が通じるということは、破壊族ではないな」

キツキツは売る者の敵か。どう扱えばいいのだろう?

ヘルが小声で僕に伝える。

「リサさんからの通信によると、反乱軍のリーダーキツキツに協力してみたらどうだ、とのこと。それと、キツキツは現実世界では戦死している模様」

「って、僕が反乱軍に協力していいのかよ?

それとも、それこそが売る者の狙いか? 考えても良く解らない。今回は姉さんに従っておく」

と、僕はヘルに答える。

僕は適当にごまかして、キツキツに取り入る。キツキツは返事を返した。

「パワーフードを食べたら、空人のヤローどもがおかしくなっちまったもだが、大岩は何ともない。どうなってやがる?」

そして姉さんは、僕がごまかす前にキツキツに告げる。

「売る者開発班は、空人を主体にパワーフードを提供した。いや、実験を試みたと言った方がいいかな。大岩が食べた安全な正式のパワーフード完成まで、多くの者が犠牲となった。その結果こそが『破壊族』だ」

その話には、僕さえも驚いた。

キツキツはもっと驚いているだろう。僕は姉さんに尋ねる。

「こんな秘密を反乱軍のリーダーに漏らしていいのかよ?」

「そこは現実ではない。ゲームの世界だ。それに、私は現実だとしても、売る者よりも大岩の安全を優先させるよ」

姉さんは、眉一つ動かさずに、こう言ってのけた。もう、どうにでもなれ、だ。

キツキツは考え込む。そして、口を開く。

「そちらの事情は、ある程度理解した。大岩が協力してくれるのは有り難い。しかし、売る者の関係者ということは、伏せた方が良さそうだ」

「そうだな」

「そうですねえ」

と、ヘルも会話に加わる。そして僕達は、キツキツ町へと向かうことになる。そこは反乱軍の拠点で、現実世界には存在しないと、ヘルは言っていた。僕の向かう先は本当は何処だ?

私は妖精ヘル。力より速く動けたら。大岩さんは、生涯の親友キツキツさんと出会いました。それは後に、『サッツの乱』と呼ばれる大戦に巻き込まれたことを意味します。大岩さん達は、大地と風の少女へと向かっていく。





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