売る者の時代

大槻有哉

第1話 プロローグ

僕の名は大岩。合っているよな? 間違いない。最後の『売る者』である『大岩』だ。僕は今、知識の果てにたどり着いた。『知識の果て』とは、おのおの自身が最も求める世界のことだ。

しかし僕は、一度満足したものの、しばらくしたら物足りない気分に陥ることがある。僕の求めた世界は、『世界』と『人々』から逃げることだ。今僕は、恐怖も喜びもない。ここは、世界にも人々にも干渉されない場所である。

二人の同行者が口を開く。一人目はクルミだ。

「私と売る者は、ここに『後悔』を置く。ねえ、売る者よ、次へ進みませんか? 私は『後悔』を、売る者との最後の場所にしたくない」

もう一人は、妖精ヘル。

「売る者はもう限界ですよ、クルミ。私は売る者の『能力』を怖れています。その通りになれば、文句はない」

サラブレッド計画は、最終段階に入っている。この計画は、僕つまり『売る者』をコピーすることが目的である。クルミは不思議そうに言う。

「最も優れた売る者のコピーは『リサ』。しかしリサは、そうではないというように、売る者と同じ名前『大岩』と『失敗作』に名付けた」

その失敗作大岩は、リサの『原型』である。完全体でなかったその原型を、リサは組み上げたのだ。リサの行動は、売る者である僕でも予測不能である。知識の果てとは、ユメであり、覚めるもの。もしも知識の果てが『最期に訪れる場所』でないのなら、僕は行く先を『リサ』に委ねようと思った。

僕は何故『後悔』しているのだろう? 今、その理由が解った。僕は本当は『世界』と『人々』に触れていたかったんだ。しかし、僕にはそれが出来なかった。何故なら、僕は『人間』だから。ヘルはニヤリと笑った。

「『ピンポイントリセット』は、本の町から生まれるのですね」


この物語の登場人物達は、各々の知識の果てへと向かいます。知識の果てこそ自らの全てと信じて。ヒロインミルクは、ゲーム世界の『勇者』を目指します。主人公大岩は、ミルクをサポートしようと、親友キツキツを頼ります。

大岩とミルクは、知識の果てへとたどり着くでしょう。そして二人は、人生最大の目標にたどり着きました。二人はそこで歩みを止めるでしょうか? それは、本の町で試されます。

それは新しい『知識の果て』なのでしょうか? いえ、きっとそれは『知識の果て』を、より『輝かせる』行動なのです。それに正解なんてありません。正解があるというのなら、それは自らが決めたものです。選ばれなかった選択肢ではありません。私は最後まで、大岩さん達を見届けるつもりです。妖精ヘルより。

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