第3話 風の運んだ物

僕達はキツキツ町へとどんどん進んでいく。僕はここで確認したいことがあるんだ。そこで、キツキツに尋ねる。

「キツキツは、破壊族そして僕をどう見ているんだ? そして、反乱軍のメンバーにどうさせたいんだ?」

キツキツは少し考える。そして答えは出たようだ。

「大岩達の話だと、ここはデータ世界らしい。ということは、俺達もまたデータに過ぎないということだ。しかし俺は、ここに確かに存在するんだ。だから、現実世界とやらで叶わなかった夢をはたす。売る者が生んだ存在でも、売る者の手先でさえも、俺は利用することを選ぶ!」

「では、破壊族はどうする?」

「俺の邪魔をするのなら消えてもらう。正直、気は乗らねえけど」

キツキツは、考えをしっかり持ってやがる。データででも存在することで、『本物』になれるとでもいうようにな。

ここでヘルが口をはさむ。

「二人とも破壊族に囲まれています。注意して下さい」

「了解」

と、僕とキツキツ。僕はデータソードを振り回す。キツキツは後方支援に回った。遠近のバランスが取れたようだな。

データソードはキツキツの動きも観察する。ここまでするかよ、売る者! まあいい。破壊族など、もうどうしようもない存在だ。甘いことは出来ねえ。容赦なくたたく。

しかし、キツキツが僕を止める。

「どうした、キツキツ?」

「大岩は気付かないのか? 破壊族とやらの様子がおかしい。何かに操られているようにとれる」

ここでヘルが分析を開始する。ヘルのデータが、僕とキツキツの頭の中へと入っていく。キツキツは少し驚きながら言う。

「変な感覚だな。って、それより指揮官がいるとはどういうことだ?」

僕は次のヘルデータの更新を待つ。来た!

「どうやらこいつがパワーフードを配っていたらしいな」

「ああ。消すぞ、大岩」

「了解」

僕とキツキツは、敵のリーダーを狙う。しかし破壊族は、リーダーを守る。破壊族は破壊本能しかないはず。ということは、リーダーが何かしているということだ。敵のリーダーは、パワーフードを口にする。

「フハハハハ、もう気付いたか、大岩。俺は宗教団体『売る者』の幹部さ」

何だと? どういうことだ。

このデータには、売る者が管理しているものしかないはず。キツキツが叫ぶ。

「来るぞ、大岩! ボケッとするな」

「すまない、キツキツ」

と僕。解らないものは解らない。やるしかないようだ。

僕は爆弾を使用しつつも考える。ヘルは、後で、とのこと。今はピンチを乗り越えるのが先ってか。今の強化班では、破壊族を従わせることは出来ないはずなんだがな。

ここでデータソードが敵のリーダーを貫く。これで死んだか? いや、消えた。敵リーダーの声が残される。

「また会おう、友よ」

どうなってるんだ? リーダーを失った破壊族達は去っていく。深追いすることもないだろう。ここでリサ姉さんがヘルに通信を渡した模様だ。ここはデータに頼るしかなさそうだな。姉さんは解説する。

「さっきの『宗教団体売る者』はデータだ。本物の売る者ではない。わが主の新しい戦略だ。つまり、元からゲームソフト内に入っていたということだ」

「ということは、売る者は大岩とデータソードの強化を狙っている。要は実験を行っているということか。そして、カエル暦五百十二年とは、現実の世界のカエル暦と違う世界へ持っていくつもりということか?」

と、キツキツは納得する。

キツキツは僕より頭がまわるようだな。僕にこの世界で暴れろとでもいうのか? データソードが無ければ、僕はそれほど強くない。従うしかない。

そして僕には、また一つ疑問が浮かぶ。そこで姉さんに問う。

「僕がいない間、現実世界に変化は無いのか?」

「大きな動きはまだない。班長の私が忙しいということで、副班長の仕事が増えたな。つまり、大岩の行動は確実に現実世界へ影響する。『リセットボタン』開発は大岩にかかっている。もし大岩が死んだり、適任でないとなれば、次が訪れる。それだけだ。私はそうならないように支援するぞ、大岩」

売る者よ、宗教団体とか変なものを作りやがって。僕が働けば稼げるんだろう。解ったよ。

キツキツ町が近づいてきている。とくに変わったところはない。見た限り普通の町だ。いや、少しさびれているか……。キツキツは僕に疑問を投げる。

「この光景、僕は知っている」

「僕も懐かしい感じがする」

「私もです」

と、ヘルまで同感する。気のせいだろ。僕達は、いつもの会議室へと向かう。

その途中で、一人の少女が立ち塞がる。キツキツは彼女に問う。

「何のつもりだ、そこの少女!」

キツキツも知らない人物なのか。小柄でややロングヘアーの少女は、意味不明なことを言い出す。

「私の名はクルミ。大地の声、海の声、海のそれらは歴史を刻む。知識の果てに、私は挑む。私の両親は売る者により、破壊族へと落とされた。それは、記憶であるということよ」

売る者とは、宗教団体の方だな。それ以外は、クルミが何を言っているのか、僕の頭では理解しかねる。ヘルが僕を慰めてくれる。

「私にもポエムにしか聞こえません。彼女には関わらない方がいいですよ」

クルミはヘルへと言葉を向ける。

「妖精ヘル。あなたはまた同じことを繰り返すのですか。私は知っているのよ」

「クルミさんでしたか。人違いでしょう」

と、ヘル。クルミがヘルの名前を知っていたのは偶然か?

「クルミとやらに関わっている暇はない。急ぐぞ、大岩」

と、キツキツは僕の腕を引っ張った。

クルミは、僕達の背中に声を残し、去っていく。

「知っていますか? 知識の果ては破壊しか残らない。そしてそこに『リセットボタン』が存在する。フフフフフ」

何故クルミとやらは、それを知っている? まあいい。

そして僕達は、会議室へとたどり着く。キツキツは残っている者達に、宗教団体売る者を警戒せよ、と伝える。反乱軍はまだ動く時ではないということらしい。キツキツは、自らがデータでしかないことを受け入れた。それでも、存在するという強い意思を持つ。

データソードは、また強化された。そして情報は、現実世界へと向かう。それは力となり、金へと移る。キツキツは僕に向かって言う。

「売る者を探ろうと思う。大岩は自由な選択が許される。どうするんだ、おまえ?」

僕はすぐに返事をする。

「キツキツに協力すると言っただろう」

「確かにな。大岩は裏切れないタイプだよ」

と、キツキツは笑う。何かバカにされた気分だ。まあいい。ヘルが情勢の調査を開始する。僕達の拠点は、しばらくキツキツ町になりそうだな。たこ焼きの味もいいし、それも悪くない。キツキツは、ヘルのそれについての分析について感想を述べる。

「どうやら、売る者の部下達は、正式のパワーフードを食べている。そして、それを利用し、見た目は同じの『偽物』のパワーフードを用意している。それを市民が食べることで、破壊族の完成となる訳か。それでは敵が増え続ける。いかれたヤツらだ」

「まあ、そうだな」

と僕は言うしかなかった。

僕は本当に、あと十年もこんな所にいないといけないのか? 戦いの日々に、僕は安らぎを感じている。キツキツは僕の初めての友になるかもしれない。データであろうと関係ないさ。それとも、僕は甘いだけかな。

その時、キツキツがいきなり叫ぶ。

「ヤツだ。大岩よ、売る者のリーダー格を潰していくぞ」

「了解」

これ以上被害が広がったら、面倒だしな。データソードよ、力をくれ! これは姉さんの魂だ。スピード強化。一般人に気づかれる前に仕留めるぞ。

僕は爆弾を補給しつつ、剣を振り回す。キツキツの『虹のビーム』、すなわち炎の七連射が敵のリーダーを捕らえた。そのビームは、僕が前に食らったヤツだ。これを見て、一般人は逃げていく。リーダー格は怒りを現す。

「もう少しでボーナスゲットだったのによ」

「きさまの事情など知るものか」

と、キツキツは追い討ちをかける。僕はデータソードを広範囲に展開する。これは武器にも守りにもなる便利なものさ。

僕の選択が、現実世界にどう影響するかは知らない。しかし、僕は筋を通す。すると、クルミの声が聞こえる。

「大岩、あなたはどのように行動しても、死んでも守られる。『売る者』という名の兵器にね。あなたがどう行動するかではなく、どう行動しても、データは集まるように出来ているのよ。それは、風の運んだ大地と海の戦いの記憶。リセットボタンの実験は、とっくに始まっていた」

そしてクルミは、リーダー格にとどめを刺す。やはり、それも消えていく。殺したという実感のない世界だ。これはデータだからな。このクルミも、やはりデータなのだろうか?

私は妖精ヘル。力とは売る者です。ヘルは売る者より先に行動する。大岩さん達は、大地と風を愛する少女クルミさんと出会いました。クルミさんと大岩さんの遭遇は、もっと大きな力『信頼』へと加速するでしょう。その名は『ミルク』。いつかこの名を耳にする。



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