第4話 破壊本能を操る者

姉さんは今、クルミと会話中だ。姉さんはクルミに尋ねる。

「つまりクルミは、風の運ぶものが理解出来るということね。大地や海の記憶を風が運び、売る者はわざとそれらを残す。そこから判断すると、データソードは何度もゲーム世界を渡ったことになる。つまり、私達と大岩、キツキツはリセットボタンで何 度も転生を繰り返してきた。この解釈で合っているか?」

「七十パーセントくらいは合っているわ。現実よりはデータ世界の方がリセットボタンを試しやすいのは当然ね。まだ、現実世界で使えるレベルではないということよ」

と、クルミは言う。

「退屈ですねぇ」

と、ヘルはダンスを始める。キツキツもじっと考えをまとめている。

リサ姉さんが、理解に苦しんでいるんだ。僕に理解出来ないのは当然さ。えーい、それにしてもヘルのダンスがうっとうしい。クルミが姉さんに問う。

「リサは、売る者によるリセットボタンの発動を望んでいるんでしょう?」

「残念。そんなものは望んではいないわ。大岩が今存在し、これからも存在し続けることを私は望む」

と、姉さんはどこまで本気なんだか……。

すると、クルミは考えを修正する。

「それは、何故でしょう、リサ。データソードは二人で作られたもの、と大地の記憶は言っているのです。データソードは、大岩とリサの絆の証です。その物語はリサも知っている……と」

「かつての記憶が、今も名残となっているとでも言いたいのですか、クルミ?」

「そうです」

と、姉さんの言葉をあっさり認めるクルミ。

そしてクルミは、話を続ける。

「私は知識を求める。そのためには、大岩とキツキツと共にいきたい」

「認めるか!」

と姉さんは強い語気で反発する。僕はどっちでもいいのだけれど……。

キツキツはクルミに言う。

「足手まといになるなよ」

「了解です」

と、クルミは軽い調子で答える。

「私はまだ認めていない!」

と、姉さんはしつこい。しかし、ヘルの証はもっとしつこい。いい加減にしろよ。これから我々はどうなることやら……。

クルミは僕は告げる。

「大岩の行動は意味を持たない」

「そうかな」

「ううん。私はそれだけ知識の果てへ近づけるから。大切なものだった気がする」

と、クルミは考え込む。それにしても、ヘルのダンスを誰か止めてくれ!

その時、反乱軍の メンバーから通信が届く。キツキツは目を通した後、僕に向かって言う。

「売る者のメンバー、ザンが動いたらしい」

「おいおい、キツキツ。僕にその説明のみで理解しろと?」

「悪かった、大岩。俺もよく解らなくなってきているんだ。宗教団体か、大岩が属する『売る者』か。もしも大岩が関係すれば、俺は戦死する必要はないのかも知れない。どうやらキツキツも頭が、整理出来ていないらしい」

そして、ダンスをとうとう止めたヘルが言う。

「これは中間といえば解るでしょうか。つまり、二つをつなぐ組織です。売る者とばっかり名乗るため、私の頭にも熱が……」

クルミが、僕とキツキツに解説する。

「とにかくザンを倒すことよ。難しく考えることはないのよ」

それでいいのだろうか? まあ、データを破壊するくらいどうってことないさ。

とにかく、反乱軍とザンが戦っている。反乱軍は、そこまでの戦力ではない。加勢する必要があるってか。僕達は、ザンの所へ急ぐ。戦況はどうなっている? うむ、互角に戦っている。僕達が加勢すれば、勝利は目前だ。

そこで、キツキツが僕に注意する。

「大岩、油断するな! 前と似たパターンだ。相手の戦力は、恐らくこれだけではない」

「そうなのか」

と、僕は戦況把握はキツキツにお任せだ。ザンは、クルミを見て驚いている。

「おまえはクルミか? 破壊族になったと聞いている。どういうことだ?」

「フフフ、間違っていないわよ。私は破壊族!」

「何だと!」

と、僕とキツキツ。ついでにザンも。

僕は、とりあえずザンに言う。

「ザンの相手は僕だ」

「他の破壊族はどうする? って、クルミに任せてよさそうだな」

とキツキツ。データソードは、最近のよく解らない出来事も解析し、力へと強化する。

ザンの剣とデータソードがぶつかる。何! 僕が押し負けている。このままではヤバいぞ。だが、データソードの形状は変化し続ける。押し負けたデータは改ざんされた。売る者の技術は、もうここまでかよ。今は互角になった。そして、互角のデータも改ざんされる。

ザンは驚く。

「何だよ、反則なぐらい強いぞ、データソードとやら」

そして、ついにザンはひるんだ。ロングビームがキツキツから放たれる。さらに、キツキツはザンに接近し、剣を叩きつける。そして後ろへと下がる。その間たったの三秒。

ザンは追い詰めたが、クルミの方はどうなっているかな? ザンはクルミに呼びかける。

「クルミは破壊に染まったのかよ。同じ売る者のメンバーだろ」

クルミはそれに興味を示したように感じた。

「私は破壊本能を手に入れた。でも私の知識への慾望は理性と化し、破壊族の『パワー』だけを手にしたということよ。私はかつて、知識の果てにいた。大岩は確かに私と共に『何か』をそこに置いた。しかし、何だったか思い出せない。再び知識の果てにたどり着けば、思い出す必要もないということよ」

クルミは、破壊本能と理性を使い分ける。そして暴れまわる。破壊族達は、そんなクルミに全く歯が立たない。後はザンを片付けるだけ。

「いくぞ、キツキツ」

「了解、大岩」

僕とキツキツは、コンビネーションを繰り出す。

「また会えるさ」

と言い残し、ザンは消え去った。

キツキツは、反乱軍のメンバー達に声をかける。

「何とかなったか。無事か、お前達。傷ついた者は、治療を急げ」

「それはいいが、リーダー。あいつらは気になることを言ってやがった」

「気になること?」

メンバー達の言葉を僕達は待つ。僕は、この世界のことをほとんど知らない。リサ姉さんや妖精ヘルも、僕と大して変わらないだろう。つまり、現実世界組はこの世界を、それほど知っている訳ではない。メンバー達の話だと、この世界の大富豪『サッツ』は、宗教団体売る者と契約を結んだらしい。サッツは四十五歳と中年だが、何故か凄く強いとのこと。サッツは恐らく、良品のパワーフードの流通先を、金の力で見つけたのだろう。これは厄介だ。ここで、宗教団体の方をニセ売る者と呼ぶことになった。

ヤツらの目的は、破壊族を戦力にして力で法律を生み出すことと、キツキツはみている。もちろんヤツらに有利な内容だろう。そしてもう一つ。サッツの副官に、凄く強力な女性がついたという。しかも、彼女は変人だという噂が流れている。

僕はみんなに問いかける。

「で、どうするよ?」

「下手に動かず、戦力の強化を図るべきだ」

「キツキツに従うしか無さそうだな」

と、キツキツと姉さんは、情報を集めつつ戦力を強化することと、目立たないのが良いという意見だ。しかし、クルミの意見は少し違う。

「サッツの副官の女性が、私は気になるわ。サッツは何故、急にそんな行動に出たのか?

サッツは十分強い。戦力以外の目的でもあるのかも知れない 」

そしてクルミは、しばらく別行動をとることになった。僕達は、反乱軍の頭数と質のいい人材を集めに出る。しかし、人材はそうそうはいない。サッツの金の力の方が効果はでかい。そして時は過ぎていく。

私はヘル。クルミさんに言っておきたいことがある。知識の果てに置いてきた物は、とても大切なこと。残念なことに、クルミさんと大岩さんの記憶は間違っているのです。何故なら、置いてきたのは現在の大岩さんではなく、最後の売る者『大岩』、つまり別人ですよ。それこそがサッツの乱、最大の『キーワード』となるのです。それは置いておいて、大岩さんにはもうすぐ、人生最大の出会いが訪れるでしょう。

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