第17話 楽しいスパイス
僕達は、フブキ図書館に辿り着く。そして、片っ端からフブキの本、つまり理論を読み漁る。そこでミルクが、あることに気づく。
「あの少年、フブキ図書館でよく見かける。フブキのファンということか。他にも気になることはあるが、今はいい」
「フブキの生きた証なのか?」
と僕。
大地とキオラは、その少年をただ見つめていた。少年の表情はくるくると変化する。ここの本が、そんなに面白いのだろうか? ミルクは考えを言う。
「あの少年は、フブキの何かを感じている」
「そんなことが可能?」
と、大地とキオラは食い付く。キオラは我慢出来ず、本を楽しんでいる少年に声をかけた。
「その本、面白い?」
「うーん。本より図書館のムードが変わることが面白い。名前はロウさ。図書館のムードマニアだ。ほら、また変わった。キミ達が来たからだよ」
と、ロウ。
僕はロウに問う。
「君の言っている意味がよく解らない。もっと詳しく説明してくれよ」
その時、何故かミルクが納得したようにロウの言葉を奪う。
「フブキに限らず、図書館は客達のムードを読み取っているということね。それで、客達の反応をみる。そしたら、それが図書館全体のムードを読み取って支配することになる。まさにフブキは、図書館になっても心を持つ証だわ」
ロウはミルクの言葉に付け足す。
「そう、キミ達が楽しく本を読んでいるから、ムードが良くなった。それは、フブキとかいうヤツの幼年期に、楽しいことがいっぱいないと成り立たない。俺はそれを『スパイス』と名付けた。じゃあな。次の図書館で会えるといい」
ロウはわれわれを残して、図書館を後にする。
キオラは少し涙ぐんでいる。
「スパイスかあ。フブキさんは今も楽しいのですね。ということは、私も幼年期に楽しまないといけないですよ。一瞬も無駄には出来ない。いや、無駄なことも必要かもです」
ミルクはロウの言葉を深く分析する。
「キオラ、ロウの言うスパイスとは、楽しいという感情だけではない。悲しい、辛い、苦しいといったマイナス要素も引き継ぐ。更に言えば、様々な知識から生まれる感情も影響する。幅広く知るということが重要ね」
キオラは今を噛み締める。
「私が楽しいと思って勉強したり、美味しいと思って苦手な食べ物を克服すれば、お客様に影響して大きなメリットとなるということです。他にも、幅広く楽しめば、いいムードの図書館に成れるのですよね」
そこで、僕は冗談を言う。
「フブキは『狭い範囲』の楽しいしか知らねえバカだってことか」
その時、大地が何かを感じる。
「ムードが変わった。フブキさん、怒ってるぜ」
「ハハハ、フブキさんは生きています」
と、キオラ。たくさんのスパイスが生まれることを願っている。そして、僕はここに来た本来の目的を思い出す。フブキの戦法は、きっとキツキツとやらに通用するさ。信じる価値はある。ミルクもな。
しかしフブキの理論は、レートを強気で踏み込むことがメインだ。こんなのがキツキツに通用する訳がない。どうしたものか……。しかしなあ、フブキも自分以外のスタイルも研究しているが、肝心なところに届かない。ミルクの頭脳なら、その先に辿り着かないものか。僕とミルクは、とりあえず基礎から覚えることになる。
僕達は時間をつぶしてから、フブキ図書館を出る。そこで待っていたのは、キツキツとロウだ。待ち伏せしてやがった、ということは、キツキツは僕達を知っている? キツキツが話しかけてくる。
「お前が大岩だな。俺の記憶から消さねばならぬ者。だから俺は、再びリセットボタンを研究する。センロとかいうバカな図書館は、利用価値があるな。通信機能を付け、センロを改造する。今までにない電子の図書館に進化させれば、ピンポイントリセットが可能になる。待っていろ、相棒とやら」
「それは面白い」
と、ロウ。
大地は言う。
「このキツネヤロウ。感じ悪いぜ」
キオラも言う。
「ロウは、そんな研究をする人の味方なの?」
「俺は中立さ。味方でも敵でもない。ただ興味深い『ムード』をかもし出しそうだ」
と、ロウはニヤリとする。ミルクはロウに向かって言う。
「見物に行ったところか?」
ロウは答える。
「まあ、そんなところだ。キツキツ、油断しない方がいい。フブキは進化した。スパイスを増やしている」
キツキツは呆れて言う。
「ロウは、俺の勝ち負けに興味を持っていないだろう」
「また会おうぜ」
と、ロウは言い残してキツキツと二人で、何処かへと向かった。僕はミルクに確認する。
「あのキツキツは何者だ? 僕達の知っている人物とは少し違う」
ミルクも考える。
「そうだな。今ある情報ではどうしようもない。誤解を生むだけさ」
しばらくすると、何処かで見た覚えのある人物が、こちらに向かって走ってくる。僕達に何か用があるのだろうか?
その男性は、ハアハアと息を乱しながら話しかけてくる。
「おまえ達、キツキツの知りあいなのか? ならば、話があるんだ。俺は、闘技場ランキング三位のコールだ。俺の本業は研究者だが、キツキツはとある研究で、おかしくなってしまったんだ」
ミルクがその男性を落ち着かせる。
「とりあえず、息を整えろ。コールだっけ。それほど本来のキツキツを案じているのか?」
やはり、キツキツにはカラクリがあったか。同一人物かどうかはまだ解らない。
コールは少しずつ説明していく。
「キツキツは、本来キツキツではなかった。上書きされたのだよ。最強のパワーフード『キツキツ』によってな。売る者の技術は生きているといい、キツタは研究を進め、パワーフードによって支配された。ヤツは、自分がキツタだった頃の記憶を取り戻すため、無意識に動く。それでも、リセットボタンなど作ってはならんのだ」
ここで、ミカンも話に加わる。
「つまり、キツタとやらはキツキツの持つ必要のない記憶を消すことで、自分を取り戻そうとしている。売る者の時代は、まだ終わってはいなかった。無意識とはいえ、キツキツの強さだけは失いたくないのか。厄介だな。それでコールは、話し合いだけで解決したいというのか?」
「ああ、俺はキツキツと戦う。それでも無理なら、大岩達に託す。キツキツの親友なのだろう!」
「ああ」
と、僕は力強く言う。
そこで、キオラはコールに尋ねる。
「センロはどうなってしまうのですか? 電子化した図書館って何?」
「そうだな。自らの意思を遠くに繋ぐことが出来る。情報というべきか。世界のあらゆる技術を集めることで、リセットボタンを可能とする」
ミルクは問う。
「それだけでは不可能だな。パワーフードを図書館に使う必要がある。それも理解出来る。だが、ガードは固いはずだ。それはどうする?」
「それは、大岩のパワーフード化で解決する。お前は売る者のコピーだということは、知っているぞ。その力があれば、売る者と同じやり方で信頼を得ることが可能だ」
僕はコールに確認をとる。
「僕を殺すまでもなく、キツキツの頭脳ならデータを集めることが出来る。キツタの、と言うべきだったか。ということは、僕のデータが集まる前に、ヤツと決着を着けないといけない。僕の言うことは合っているか?」
コールはうなずいて言う。
「大体な」
そしてコールはキツキツに挑む。僕達は、コールがキツキツを止めてくれることを願いながら、戦いを見守る。キツキツは言う。
「コールなど知らんと言っているだろう」
「ならば、キツキツのメッキをはがしてやるさ」
と、コール。
キツキツとコールの最初の激突。
「パワーとはいいものだ。かつての俺には無かったもの。必要ないと思ったもの。自分を取り戻し、パワーも維持する。どんな欲望だって叶うんだ」
「それはまやかしに過ぎん」
二人は再び激突する。キツキツは虹のビームを使用しないぞ。その理由は解らない。キツキツは言う。思い出す。
「リサさん、クルミ、大岩、みんなの声がするよ。売る者に関わるなって。みんないいヤツだよ。だからこそリセットボタンが必要なんだ。優しい言葉達は、俺を惑わす」
「これもキツキツの一面ということか」
と、コールは戦いながらも分析する。
キツキツが闘技場にこだわるのは、そこがパワーフードの集まる場所だからか? それなら説明はつく。センロも近くにいた。
「キツキツ様がおかしくなっていく。それでもついていくと決めた」
大地は悩む。
「俺はまだ子供だ。俺に出来ることはないのか?」
キオラは微笑む。
「楽しいスパイスを、私と大地はフブキさんから貰ったんだよ。怖い顔してても、ムードは良くならないです」
「そういうことだ」
と、少年ロウ。センロは一人つぶやく。
「俺は優秀だ。しかし、それだけの存在。トップには立てない中途半端な図書館」
ミルクは何かに気がついたような表情。
「そうか、そういうことか」
戦いは、キツキツの圧倒的優勢だ。それでもコールは戦う。
「キツタは図書館を巡り、子供のようにファンタジー世界のアイテムを実現したいって言っていた。パワーがあれば、ユメなど消えるのかよ」
コールの声はキツタには届かない。キツキツのデータに届くだけ。キツキツはレートを無視しても、この強さだ。コールでは無理だったか。しかし、コールはここでのルールなら僕より強い。どうすればいいんだ? ロウはつぶやく。
「ムードは揃いつつある。楽しいスパイスかどうかは、登場人物次第といったところだな」
妖精ヘルっちです。キツキツのパワーフードに頼ったキツタさんは、キツキツさんの声を聞く。キツキツさんの知識の果てに、キツタさんはいない。キツキツさんの存在こそ、大岩さんのデータソードであり強さ。キツタさんは遂に、自らのマップとコンパスで歩き始める。自分で経験したことこそが知識だから。キツタさん自身のツルギを、大岩さんは止めることが出来るのか?
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