第18話(最終話) 知識の果て
コールは追い詰められた。
「くっ、俺とキツタは知識の果てを求めた。お前はパワーに支配されたのか」
「止めだ。今日も俺の勝利」
とキツキツ、というかキツタ。どっちでもいいが、キツタと呼ぶことにしよう。やはりコールでも勝てなかった。
キツタは僕に向かい呼びかける。
「大岩と戦う必要がある。キサマも俺が邪魔なのだろう」
「解っているじゃねえか」
と、僕。ミルクは何も言わない。僕はキツタとの戦いに備え、最後のトレーニングをフブキ図書館で行う。
センロは、キツタに利用されていることに気づいていた。それでもキツタを求める、自分を変えてくれると信じて。ロウが本を読みながら言う。
「ここの図書館は明るいねえ」
「何処が?」
と、みんな。キツタとの対決の前に、ピリピリしていると思うのだが。
ロウは、面倒くさそうに解説する。
「フブキはね。必要とされていることが、多分嬉しいんだろう。スパイスによるムードがそんな感じ」
僕の強化に、コールも手伝ってくれる。ミルクは言う。
「今回の対決はレートよりも耐久力だと、私のカンは言っている。勇者である私の考えだ」
どういう意味だろう? やはり時間を稼げということかい。大地はつぶやく。
「俺にはまだ力が無いんだ。だが、キオラの未来だけは少なくとも守りたい」
「うん、大岩さんとミルクさんは、たくさんのものを運んでくれましたもフブキさんもきっと満足しています。そう信じたい」
と、キオラは祈りを捧げる。キオラのオーナーは、僕とミルクに悪い印象を漏っていたらしい。まあ、凄い性能らしいからな、キオラは。
というか、オーナーはここでキオラを見守っている。危険だと解っていながら。オーナーは言う。
「大岩君とミルク君は、知識の果てに辿り着いたのだ。それなら、多くの経験をしてきたというのも理解出来る。キオラを危険な目には会わせたくない。しかし、死線を乗り越えることで得るものもある」
「はい」
と、キオラ。
姉さんの命、データソード。今回もお世話になるぜ。僕とキツタは、闘技場ではない場所で決着を着けるとのこと。そして僕達は、呼び出された場所へ向かう。そこでは、センロが機械仕掛けとなっていた。フブキの魂を、データソードに決めてやる。
キオラはセンロに話しかける。
「センロ、本当にそれでいいの? あなたにも、スパイスやムードの可能性はあるのです」
「トップの座から見下ろしやがって、キオラ! 今俺は充実してんだよ」
と、センロは少し苛ついていた。
キツタは言う。
「リセットボタンの実験に、センロを使わせてもらう」
「どうなんだ?」
と、大地。キオラは、それに答える。
「センロを説得したいが、今の私の話では説得力に欠けるのです。他の何かが必要です」
大地はキオラをガードしている。任せたぜ。キツタが何をやりだすか解らないし。ミルクは僕に伝える。
「知識の果てを思い出せ、大岩」
「よく解らないが、ミルクの言うことなら信じられる」
「もう少しで、大岩のデータが集まる。売る者が再び力を取り戻す。行くぞ!」
「まだ、始まっていないだろ」
キツタの言葉に、僕はそう返す。
遂に戦いが始まる。虹のビームは使ってこない。キツキツにでしゃばられたくないってか。データソードが、思ったより効果がある。特訓の成果か? うーん、違う気がするよ。何かカラクリがありそうだ。やはりキツタは強い。しかし、百パーセントの力が発揮出来ていないな。
キツタは混乱している。
「うるさい、うるさいぞ!」
キツキツのパワーフードは強力だが、その代償もでかいらしい。心が病んでいる。それとも、キツキツが何かしているのか? 解らんな。
「よっ、相棒。元気かい?」
と、キツキツの声がする。更に続けて、
「キツタはデータソードに勝てねえよ。もちろん大岩にもだ」
よく解らないが、キツキツのデータが強く現れている。どうなっているかは、今はいいさ。
剣と剣がぶつかる。キツタに力がない。いや、データソードが強く反応している。これは、リサ姉さんのパワーなのか?
「それだけじゃないぜ」
とのこと。一撃をキツタに決める。
「くっ、どうなってやがる」
と、キツタは状況が飲み込めない。僕にも解らない。
僕とキツタの戦いは、僕の優勢になっていく。しかし、油断は出来ない。
「場所を移そうか」
誰の声だ? 聞き慣れた声だ。恐らく親友キツキツの声。キツタは暴走状態。
「キツキツ、何故俺から離れていく?」
「離れていると思うなら、自分に問いかけろ」
と、僕。
ミルクが言っていたのは、このことか。レートよりも、しのぎ切ること。そして、知識の果てに辿り着いたこと。キツキツはキツタに告げる。
「データソードは何で出来ているか知っているかい。俺の力、リサさんの力、クルミの、ミルクの、大岩を認めるみんなの想いだ」
「キツキツの力も含まれているのか?」
と、キツタ。僕はキツタに言う。
「知識の優勢は、自分を認めた時に辿り着く。キツタはパワーに頼るのか?」
データソードは、そうやって強くなってきたんだ。場所が移り変わる。何処へ向かう? 僕も知らない所だ。僕は独り言を言う。
「ここは何処だ?」
キツキツは語る。
「俺はキツタの研究で生み出されたキツキツの魂。そして能力。キツタの本来のユメは、発明でみんなに喜んでもらうことだろ、欲望に支配されたいなら、止めないがな」
僕も続ける。
「欲望に支配されれば、最初は気分いいだろうよ。ピンポイントリセットは、それを可能にする。しかし、信頼を失い、ユメも失い、孤立する!」
「俺はどうなっている? 何を求める?」
と、キツタに迷いが出てくる。そして、それはどんどん強力になっていく。
キツタはもがく。
「ここは何処なんだ?」
キツキツは答える。
「知りたいなら教えてやる。俺の知識の果て、俺が自分を認めた世界だ。そこにはリサさんがいて、クルミもいて、ミルクもいる。キツキツ町のみんなも。そして何より大岩がいるんだ。どういうことかというと、俺はみんなに認められたことが嬉しかった。だから、自分自身を認められた。ここはキツタのいる場所ではない」
「俺は何がしたい? 解らない」
と、キツタはどんどん困惑していく。
キツキツのデータは言う。
「なあ、キツタ。言っておくことがある。本物の俺は、今何をしているか知らないけれど。ユメもアイテムも自分の気持ちも、自らが知っていることしか伝えられないんだぜ。俺ではダメなんだ。自ら知るしかないんだ。自らの知識でユメを叶えろ、キツタ。データの俺を捨てろ」
「俺は知識を深め、自らユメに近づく!」
キツタが、遂にキツキツのデータと分かれる。これが本物のキツタ。データソードの効果が弱くなった分、キツキツがいた頃より強く感じる。だが、もうヘロヘロだ。僕もだけど、決着は近い。
再び剣と剣は交わる。押し勝った方が勝者のはず。というか、僕はもう負けてもいいんじゃないか? めでたしめでたしではないのか? その時、ミルクの声で我にかえる。
「いけー、大岩!」
危ないところだった。僕も全力でいく。受けてみろ、キツタ。均衡は破られていく。
勇者様の応援に応えられないのは、情けないぜ。僕はキツタの剣を弾く。そして、一撃が入った。どうだ? キツタが確認する。
「俺は負けたのか? しかし、キツキツ。キミに会えて良かったよ。大切なことに気づけたかも知れない。ユメはまだ生きている、だね」
キオラは宣伝をする。
「キツタさん、数年後に完成予定のキオラ図書館も、見所いっぱいになるはずです」
しかし、これでは終わらない。大地がセンロに木刀を突きつけたままだ。。
センロは適当に言う。
「そんなオモチャでは、俺は殺せねえ」
「解っているよ。殺す気などない」
と、大地。ロウはつぶやく。
「これはいいムードになりそうだ」
キオラはセンロに近づく。センロは、苛ついた声をキオラに向けた。
「来るな。俺は図書館としての価値を失った。いや、元からなかったんだ」
キオラは、精一杯センロに伝える。
「私は、フブキさんが図書館であること、イヤだったんですよ。大地がいるから、私は図書館でありたくなかった。何時か別れる日が来るんだって。折角高スペックに生れたのにね。でも、大岩さんとミルクさんが来て、多くのことを知りました。それが無ければ、今もフブキさんの運命を呪っていたかもしれません。だからこそ、私は大地が悲しまない立派な図書館になります」
センロはキオラの目から視線をそむける。
「ちっ、俺はテメーが遊んでいる間、特訓してたんだ。性能の差、ひっくり返してやる」
キオラは首を振る。
「それは約束出来ません。大地がこれから私を支えてくれるって、以前言ってくれたから。世界一の個性的な図書館になりますよ。どの図書館も、一つとして同じものはない個性、そこに勝ち負けはないかもです。ならば、そのなかでも光る独特の目立つ本を、思い出で館内をいっぱいにするですよ」
センロは興味を別の所へ移す。
「客入りでは勝負にならんてか。それもそうだ」
大地はセンロに告げる。
「俺達は仲間を増やし、様々な考え方を得る、そうやって、キオラを輝かせてやる。フブキさんのように。先ずはセンロを部下にしてやるか」
「ふざけるな!」
と、センロ。
ロウはまたつぶやく。
「このムードは嫌いじゃない。キオラ図書館を覚えておいて、損はないかもな」
ミルクは僕に伝える。
「そろそろ次の所へ行こうか、大岩」
「そうだな」
と、僕。
僕達は適当に進んで行く。巨大な天使は、今日も元気いっぱい、多分。僕はミルクに今の心境を伝える。
「なんか、キツキツ達に会いたくなったよ。キツキツの知識の果ては僕に響いた」
「大岩、ホームシックか?」
「そうかもな」
「否定しないっと。今日も日記をつけるぞ。そして、故郷も悪くないかもだな」
「うん」
と、僕はうなずいた。
そして時は過ぎ、大きな鳥が荷物を運ぶ。
「んっ、本か」
と、僕。ミルクは考えるポーズ。
「キオラ図書館か。大地の字だな。思い出を作りすぎて、図書館に入り切らんてさ」
「それは良かった」
と、僕。僕とミルクの思い出も、それぐらいになったのだろう。
ミルクもそろそろゲーマー魂に火がついた頃。
「なあ、ミルク。僕はゲームをそれほどやってきた訳じゃないけど、ミルクと再び対戦してやるぜ」
「大岩もゲームに目覚めたか。これは、封印を解くしかないな」
やっぱり僕達の日常はこれだ。そして、これからもそれでいい。思い出は腐っていく。それでも大切なもの。鮮度は保証しないけれど、ミルクと共に僕は進んでいくよ。腐りきった世界を避けて。
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