壮大。長大。取り込まれる。

 自分が命を賭して守り、戦い抜いてきた世界が実はパラレルワールドで、枝分かれした世界である以上それは「本物」ではない。生きてきた意味、賭けてきた価値を根本から否定される、世界のシステムという不条理。勇者として災厄の竜を打ち倒したユウに待っていたのは本来の世界から来たという、彼からしてみれば異分子です。
 アルテントロピー、源世界に亜世界と、専門用語が複雑に構成された世界感を彩ると同時に鍵となって機能します。複数の世界を渡っても物語として散らかることなくそれぞれのワールドを楽しめるのが強いです。文化レベルから生物までまったく異なり、それだけで一本書けそうな世界がぎゅっと詰まっているのに。この物語の主人公は誰ですかと聞かれて名前が浮かぶ人はいますが、それぞれの世界と、そこに生きようとした人々がいる以上、誰もが主役級の思いを背負い、生きている。それをひしひしと感じる壮大なドラマでございました。

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