この物語、語る言葉は一つにあらず……君が居るこの世界は本物か?

 転生・転移ものがそれほど得意ではない私ですが、そのジャンルでは珍しく新話の公開を心待ちにしている作品です。これまで別サイトも含めて数十の作品へレビューを書きましたが、そのスタイルを崩して冒頭から「推し」であることをお伝えしたいと思います。

 お話の主要な構成は、所謂「転生・転移者狩り」に分類されるのでしょう。しかし、その一言で言い切れない面白さを醸し出しているのが、この物語です。その特徴は何と言っても設定の「濃厚さ」と「安定性」でしょう。最早SFだけでやって行けるほどに練り上げられている世界設定。そんな世界で活躍するのは、明確な目的を持った主人公達です。えてして行動目的が曖昧になりがちなこの手の物語にあって、明確な目的を持って行動する主人公達。時に葛藤を見せ、時に冷然とした決断を見せる、そんな彼等の魅力は盤石な世界設定があって「こそ」のものでしょう。

 物語は極めて読みやすく、分かり易い表現で進行していきます。読解力の程度に依るでしょうが、まず地の文で詰まることは無いと言い切れます。何度も何度も練り直し、推敲を繰り返した文章だろうと、同好の者として頭が下がる思いです。

 しかし、少し心配な部分もあります。お勧めするからには、この部分にも触れなければならないでしょう。それは、分かり易い設定と平板なストーリーの流れ、判で押したような変わり映えの無い「ありきたり」なWEB小説に慣れきった方には少し刺激が強いかも知れない、というものです。誤解とお叱りを怖れずに敢えて言うならば、第一話の冒頭に置かれたこの世界をざっと説明する年表と聞き慣れない幾つかの用語に、読むのを止めてしまう方も居るかもしれません。

 しかし、それは実に勿体無いことなのです。冒頭の年表や設定、用語などは「第一話に書いてあったな」程度に覚えていればいいのです(気になったら戻って確認すればいいだけのことです)そして読み進めましょう。先ず読みやすい文章によってあっと言う間に三話くらいまで進んでしまいます。そして、徐々に物語に惹きこまれたところで、時々戻って用語の確認をしながら更に続き読み進めるというスタイルになると思います。そして何度か繰り返すうちに、いつの間にか暗記しています。面白い作品とはそういうものだと思います。

 子供の舌には白身魚のフライが美味く、大人の舌には秋刀魚のはらわたが旨く感じるように、いつの間にか独特の設定と用語が「旨み」のように感じ始めるはずです。そうなれば、しめたもの。既に貴方は設定厨……失礼しました。

 さぁ物語を一緒に楽しみましょう。

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