異世界へ行く話というのは昨今の流行ですが、この話は現実社会の常識を異世界へ移植するようなタイプのものとは全く違う。異世界に不慣れなために感じる戸惑い、その一方で感じる世界への憧憬。
この作者さんが創る完成度の高い世界観が本当に好きです。その舞台の上で問題があったり事件が起きたりしても、世界観は常に維持され、陰に日向に物語を支えてくれているように感じます。ドラマはとても素直な進行ではあるのですが、このぐっと前面に引き出された世界観が本作の大きな個性となって、会話や展開の中に堅苦しくなく織り込まれており、魅力的です。カラーがはっきりしているという意味では、コンピュータゲームとかに近い感じもあってなじみがあり引き込まれました。
そして主人公の「かけたものを探しに行く」という思春期の心情と「かけている」世界のもたらす切なさ。このあたりすごく描き方がよくて引き込まれます。誰だってなくしたものを探してるんだ、だから一緒にいこうよ、って言われているような気がします。
薄い色彩を感じるように見えて、とても深みがある世界。そこで生きるイサムやヒロイン、多くのキャラクターも温かみのあるいい奴らです。こういういい話を書けるのは、やはり乙島紅がいいやつだからでしょう。
主人公は高校三年生の理論武装クソメガネ、イサム。
ある日、紙飛行機を見て、七年前に仲の良かったすみれちゃんが異世界に行ってしまったことを思い出し──。
王道的な始まり方! グッと引き込まれます。
そして『空とぶじゅもん』ですよ。こういうのホント好き!
さあ、いざ異世界!
なんやかんやで異世界に来たイサムは、不思議な力『ナ・レート』を使いこなしながら、崩壊した世界を冒険します。
登場するのは、記憶を失った少女だったり、物語の好きなお姫様だったり、カッコいいサイボーグだったり。
あれ、この子がもしかして……?とか考えながら読んでました。
あとは笛吹ですよね。多数の世界に存在する同一人物。不思議すぎる……。
彼の存在がこの物語の一つの大事なポイントです。
こちらも、色々と予想しながら読みました。が、乙島さんの強力な創造力は私の貧困な想像力を裏切って、見事に衝撃の展開、ハラハラドキドキワックワクのストーリーをぶつけてきます! 「何っ!? そう来たか!」って5回くらい言いました。
すごく個人的なお話になってしまうのですが、作品に夢中になりつつ、宮部みゆきさんの『ブレイブ・ストーリー』を読んだときのことを思い出しました。
どちらも、異世界まで巻き込んだ壮大なストーリーであるにもかかわらず、すごく読みやすく、身近に感じられるんですね。
あとこれは、面白い物語を読んだときに毎回感じることなのですが、言葉とか物語の力ってホントすごいなぁっ……て。特にこの作品はテーマがテーマだけあって、それが顕著に感じられました。
あとタイトルすごくないですか? みなさん気づいてます?
■に文字入れて読むと『A LOST WORLD』なんですけど、■の部分抜かすと『A LOT WORD』になるんですよ。すごい。参りました。
さらに、こちらも狙ったのかどうかわかりませんが『A LOT WORLD』『A LOST WORD』でもこの作品をしっかり表せているような気が……。ホントすごい!
勇はちょっとした後悔を抱えている。
それは小学生の時、仲良しの女の子の言葉を「信じて」あげなかったこと。
女の子は失踪し、ごくごく普通の受験生生活を送る中でも、ほろ苦い後悔は忘れられなくて――
なんてところに、女の子を思い出させる謎の紙飛行機(手紙文付き)が飛んできた。
もう後悔はしたくない、旅立つしかない。
彼はヘルメットと傘を用意して、異世界に向かうのです。
そうして向かった先は、滅んだ世界。
そこで彼は、言葉を操って、未来を切り開いていく――
主人公の理路整然かつ毅然とした行動がカッコいいし、付いて行きたくなるし。
途中で知り合う女傑も、とんでもなくカッコいいのだ。
そして個人的には、永い旅路を言葉で表した願いでもって乗り越えた『お母さん』に拍手を送りたい。
そんなこんなな、言葉を操ることに怖れを持たない登場人物たちにハラハラさせられ、泣かせれて。
明日からもステキな物語に出会えたらいいなぁ、と呟きたくなる一品です。
あなたもヘルメットを準備して、世界再生の旅へ、いってらっしゃい!
主人公イサム君がある手紙によって異世界へと転移する。しかしその世界は何らかの原因によって滅びており、その影響か住人の理性すら破綻してしまっている。
この世界でどうにかしようとするのが主人公であるイサム君の役目である。しかしその他にも、読者の言葉によって世界が救われるかもしれない。
この作品はいわゆる読者参加型であり、読者が『復活させてほしい言葉』を提示する事によって、次の話が言葉によって影響されていく。もしかしたらそんな言葉がこの滅びた世界をどうにかするのかもしれないし、あるいは世界の鍵を握るかもしれない。
なのでこの作品を楽しみにしつつ、どんどんと復活させてほしい言葉をこの作品に送って欲しい。それがこの世界への希望になるのだから。
乙島紅様がお贈りするポストアポカリプス風異世界ファンタジー。ぜひともご覧あれ!
鬱屈を抱えた少年、赤塩勇は異世界に引っ張り込まれてしまうが、そこはすべてが崩壊していた世界だった。そこで彼は、ヴィオラという少女と出会い、彼女に導かれるようにして傷ついた城へと赴く。そこに待っていたのは……。
物語は中盤であるが、謎が多く、全体像はまだ見えてこない。気になるところは多々あり、それが話を引っぱる原動力となっている。勇自身の能力のしたところで、描写されたとおりのものなのか、実は何か裏があるのではないかということが気になる。ちりばめなられた伏線がどのような形でまとまるのか楽しみでもある。
際立った文章が崩壊していながら、それでいてどこか美しさを感じさせる世界を支えている。
web小説ならではの仕掛けもあるので、連載を楽しみながら、物語の行く末を見守って見るのもよいかも!