呪術とロボ、その一見相反するようでいて、見事に融合しあい、そして神話へと昇華していくスケールの大きい背景。
対して、凝縮してまとめられた親と娘の小さくささやかな世界。
ダークでハード、そしてハートを撃ち貫かれる物語である。
もちろん、相反するだなんて最初から思ってはいない。
古来、呪(まじな)いには、人形(ひとがた)が用いられてきた。
人としての形をし、四肢を有し、操る者の意を汲み、想いに応える。
ロボットが人型たりえる親和性、神話に見出すことは容易であろう。
だが、そこを軽々しく設定として論じることは出来ない。
ロボットという硬質なモノに、暗く、湿り気を帯びた、人の念を緻密に描写していった作者のエネルギーを感じ取れるからだ。
悲壮感漂う情念、それを代弁して熱くぶつかり合うロボ達。
た・ぎ・る・わぁ~・・・・・・っっと、失礼。
非常に、カタルシスを得られる。
結末は、呪い、願い、その果て、人知れず咲く華のようなひとひらの救い。
この愛すべき物語に、呪をかけられた、私もその一人である。
カルト教団と公安警察が人知れず呪術戦を繰り広げる、舞台は至近未来の東京。
現代伝奇作品でありながら、古くは日本神話にも遡るオカルトパンクーーしかし最終的にロボット作品としての熱い文脈を外さない、どうにも絶妙なラインを渡る作風がとにかく読ませる作品。
読み進めれば進めるほどに作者の呪術知識や神話解釈が作品に上手く溶け込んでいる様に唸らされ、最終的にそれが主人公の登場する「呪操槐兵」を魅せる舞台装置として機能している演出の巧さが各所に光る。今まで見たことのない作風にも関わらず、槐兵同士が巨大ビル郡の狭間でしのぎを削り合う様が容易に脳裏に浮かんでくる。
幾ら呪いで身が蝕まれようとも、愛する娘を救う為、眼に映るもの全てを殺し進み続ける主人公、水鏡幻夜。
呪いを糧に起動する謎多き槐兵「御霊」。
ーー曰く。呪装槐兵は最強のステルス兵器と謳われる。あるいは今この時。大都会の空を見上げれば、そこに呪操槐兵がいるのかもしれない。
そんな妄想に駆られる面白さを生み出した作者に嫉妬の念すら産まれてしまうーー思わず口元がニヤリとするような演出がいやに光るこの作者、やはりあなどれない。
まず初めに、よくここまでSFロボットと呪術を上手く融合させたなぁと思います。
今作における『呪操槐兵』というロボットが何故人型しているのか、それは呪い人形を拡大解釈させた物だからとか。ロボットによくある武装が呪術道具に因んでいて、それでいて違和感を感じさせないとか。こういった設定を書くなんて本当に凄いとしか言いようがないです……。
そして人に見えないロボット戦というのもユニークで、人目に晒されながら戦う物とは一味違った緊迫感が感じられる。これもまた単なる設定だけに留まらず、今作における重要なキーパーソンになっているのもまた見事。
褒めているだけになってしまってますが、もうそれが言えません! 本編の内容はぜひとも読んで確かめて!
古式ゆかしく呪術とは、すなわち呪い、祓い、身を雪ぎ、穢すという行為によって成り立つものだ。
わかりやすく言えば、藁人形と釘がなければ丑の刻参りはできないということである。
呪術には手順が必要で、それがときに儀式と呼ばれるものである。
この作品はそれを、見事に現代の形に昇華している。
式神を放つには銃弾を射ればいいというのは、これ以上なくわかりやす縁の結び方だ。
何より見どころなのは、木製の巨大ロボット──槐兵だ。
軽量級でありながら、その迫力はすさまじく、作者の筆力もあって脳内ではとんでもない戦闘シーンが再現される。
加えて、作品のテーマの一つに樹というものがある。
樹木とは歳を経るものだ。
歳を経たものにはおのずと神が宿るのがこの国の考え方であり、藁人形などの形代も、もとをただせば木製である。
そうだ、本来死者の国を、我々はこう呼んだではないか。すなわち──根の国と。
現代において呪術を昇華させ、その上で巨大ロボ戦闘までやってのける。
まさに、現代呪術戦の看板に偽りなしの作品である!
呪術と巨大ロボット。
それはある意味相性が良く、そして難しい。
ロボットという人を超えた力を様式美をもって支配する流れが
魔術に似ていると仰った方がいますが。
それを成しえる為にはしっかりとした考察が必要で気軽に
纏められるものではない。
けれど本作はそれを成しえている。特にep6「見えざる純黒」
ここでロボット物としてのエンジュの魅力が開花するのだ。
それまで積み重ねた現代伝奇と特殊部隊を掛け合わせた
流れの枝葉にロボという華が咲くのだ。
そして、物語は結末に至った。そこにあるのは大筋としては
多くの人が想像した可能性の一つ。けれど呪というテーマをもって
描かれたこの終わり、あるいは始まりは最後まで読み終わった読者の
胸にしっかりと刻まれると思うのです。