宮内浩 春 07
二十代のお兄さんは、近所に住む親戚のような気軽な笑みを僕に向けてくれた。
その笑みが僕にとって有難いものだった。
「元気です」
と僕は頷いた。
事故は間違いなく僕の不注意だった為、お金のやり取りは最小限だったと聞いていた。入院も肉体的なものというより、僕の混乱した精神を落ち着かせる為の処置だった。
「そうか。良かった、良かった」
言いつつ、お兄さんはベッドの横にあるパイプ椅子を組み立てて腰をおろした。
そして、お土産だとチョコレートやクッキーの入ったコンビニ袋を差し出した。
「ありがとうございます」
言って、受け取るとお兄さんは僕をまっすぐ覗き込んだ。
「礼儀正しいのは良いことなんだが」
と言って、眉をひそめた。「君、俺が轢いた時から生気がないよな。何があったんだ? クラスの女子のリコーダーを舐めていたのが、バレたのか?」
どういう表情を浮かべれば良いのか分からず、僕は曖昧に首を横に振った。
「リコーダーを舐めたんじゃなければ、お姉ちゃんが一緒にお風呂に入ってくれなくなったとかか? 答えはな毛なんだ、別に君を嫌いになったとかじゃなくてだなぁ」
最低なことを言われているのは分かって、僕は笑おうとしたが、結局は泣いた。
お兄さんを困らせるな、と頭の片隅では思ったものの、涙は止まらなかった。僕はせめて声を殺そうと顔をシーツに押し付けた。
「あー」と言いよどんだ後、「いいよ、好きなだけ泣けよ」とお兄さんは言った。
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