宮内浩 春 02

 翌日、岩田屋高校を受験した同じ学校の同級生に音楽プレイヤーを落としていないかと聞いてまわった。全員が首をかしげるか、横に振るだけだった。


 僕はその時点で音楽プレイヤーを持ち主に返すことを半分諦めてしまった。


 今になって岩田屋高校の先生に渡すのは気まずいし、入学後に聞いて回るのも現実的ではなかった。実際その生徒が岩田屋高校に入学しているかも分からないのだ。


 仕方がない。

 そう結論付けた後、音楽プレイヤーの電源を入れてみた。データの中に持ち主の情報があるかも知れない、と僅かに期待していた。


 データは音楽のみで画像や動画といったものは入っていなかった。

 プレイリストは数字だけの簡素なもので、十ほどに分けられていた。試しに上から二つ目を開いてみると、「タイトルなし」というタイトルがずらっと並んでいた。


 一つ目の曲を再生してみた。

 ピアノ曲だった。

 録音したものなのだろう、音に少し距離を感じた。聴き覚えのない曲だった。続けて他の曲も聴いてみたが、知っている曲はなかった。


 ただ、どの曲も共通して心地良く、楽しげな印象があった。

 僕は暇さえあれば音楽プレイヤーを聴くようになり、ベッドの上でそのまま眠ったことさえあった。

 音楽プレイヤーに入っている「タイトルなし」の曲を聴くのが当たり前に感じ始めた頃、僕は小説を書く時にも流してみた。


 僕は今まで気が散るという単純な理由から音楽を聴きながら小説は書いていなかった。けれど、試してみるとタイトルなしのピアノ曲は僕をちゃんと現実から引き離してくれた。

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