宮内浩 春 03

 小説を書き始めたきっかけは姉の死だった。


 僕が中学一年生、姉が高校一年生の五月五日、こどもの日のことだった。

 姉は友人の誘いでハイキングへと出かけた。大きな川のあるハイキングコースで、多くの花畑が見れることで有名だった。


 姉はそこで一人の男の子が川で溺れるのを見つけ、助けようとし、水の勢いに足を取られて流されてしまった。最初に救出されたのは男の子で、二時間もの人工呼吸によって一命を取り留めた。

 姉は五百メートルほど流されて岩に引っかかって発見された。その時点で手遅れだった。


 僕が通う中学校のグランド一周が約二百メートル。

 姉はグランド二周半もの距離を流されたことになる。意識がなかったのだとしても、流されたその距離を思うと僕は息が詰まった。


 姉の眠っているような死に顔を見て、僕は泣いた。

 姉の葬儀の間でさえ、僕は小さく嗚咽を漏らしていた。火葬を終え、家に戻った僕は姉のベッドで眠った。


 そのままの恰好で二週間、排せつと食事以外の時間を全てベッドの上で過ごした。

 

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