宮内浩 春 05


 気配は僕が気を抜いた時を狙って現れた。


 玄関の扉を閉めるほんの僅かな隙間、横目に映った川辺……。何度も見ているとそれらは全て、僕が二週間眠り続けた時に見た夢の一部と重なっているような気がしてきた。

 

 現実に夢のような不確かなものが紛れ込みはじめている。

 その幻の根底に姉がいるのだとしたら、僕にとって願ってもないことだった。

 姉が僕に何かの影響を与えてくれている。死んでいるとしても、姉によって僕は感じる現実を変えている。

 姉が生きていた頃のように。


 僕は夢の気配があったものを注意深く観察し、ノートに書き留めるようになった。夢の気配は多くて一日三回。

 全て視覚の片隅や僕の動きの後に続く形だった。


 まるで影のように、ぴったりと一定の距離を保った『それ』を僕は捕まえようと手を伸ばした。

 丁度、学校からの下校中だった。僕が捕まえようとした夢の一部は道路の先にあり、無防備にそれを追った僕は走ってくる車に気が付かなかった。

 

 車のドライバーが咄嗟にブレーキを踏んでくれた為に、衝撃はそれほどはなかった。

 ただ、ぼんやりとしていた僕は受け身の一つも取れず道路に転がり、気を失ってしまった。

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