眠る少女

郷倉四季

2011年 岩田屋高校 春。

宮内浩 春 01

 それは音楽プレイヤーだった。


 画面が小さい古いタイプで、手に取ってみると随分使われていることが分かった。顔をあげて見慣れない廊下を見渡した。

 視界に入った男子は強張った表情で歩いて行き、その後ろを歩く二人の女子生徒は楽しげに喋ってはいるものの声はどこかわざとらしかった。


 僕たちは受験生として岩田屋高校を訪れていた。

 みんな緊張していて当然だった。

 だからこそ、僕は悩んでしまった。音楽プレイヤーを落としたのが在校生なら監督役の先生に渡せば良い。ただ受験生の物だった場合は先生に渡すのはマズイのではないだろうか。


 中学生の僕たちにとって音楽プレイヤーは不要物に分類される。不要物を受験先の高校に持ってきていたと分かれば、受験生はペナルティを負うだろうし、それが原因で不合格になってしまうかも知れない。


 逡巡したのは一瞬だった。

 僕は音楽プレイヤーを冬服のポケットに収めて教室に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る