16万文字でもプロローグ。壮大なファンタジー物語の入口へようこそ。

まず、16万文字という『長編』に部類されるボリュームでありながら、壮大な物語の第一章……いや序章にしか過ぎない、という点が物凄いと思いました。
家族や故郷を失ったレイラを主軸とした物語ですが、彼女の生きる世界、そこに根付く歴史や仕組みや人々というものが、細部まで作り込まれている印象を受けました。非常に『こだわり』を感じられる一作です。
そうした世界観や設定の緻密さ・壮大さだけでなく、登場人物達の感情や葛藤というものも丁寧かつ繊細に描写され、そういった部分での技量はとても高いと思います。『その場面でこのキャラは何を感じたか、何を思ったのか』を三人称の文章で過不足なく表現できるのは、並大抵のことではないはずです。それを成し遂げている部分に感服しました。見習いたいものです。

ただ、丁寧であるが故に――そして壮大な物語の『冒頭』でしかないという事実も相まって――ひとつの完結済作品として読むと、ストーリーの進行がスローペースだなと感じたのも事実です。
1話ごとの文章が1000文字前後と少なめ、ということもあり(Web小説では「長いよりは短い方が読みやすい」とされていますが……)、ページをめくってもめくっても場面があまり変わらず話が進んでいないな、といった印象も個人的には受けました。
そして意味深なシーンや伏線や謎が多く、それ自体は別に良いのですが、作品全体としての目的や最終的な着地点も見えにくく「結局誰が何をする物語なのか」を端的に言い表すのが難しい部分で、とっつきにくさや読みにくさが生まれてしまっているのかなと思いました。

とはいえ続編や今後のシリーズで、それらの謎や伏線が回収されていけば、凄まじいまでの盛り上がりや感動を生み出すのだろうなとは強く感じます。
全てを見届けた後に忘れられない名作になる、その『卵』であると予想できる良作でした。今後のシリーズ展開に期待が高まるファンタジー小説だと思います。

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