まず、16万文字という『長編』に部類されるボリュームでありながら、壮大な物語の第一章……いや序章にしか過ぎない、という点が物凄いと思いました。
家族や故郷を失ったレイラを主軸とした物語ですが、彼女の生きる世界、そこに根付く歴史や仕組みや人々というものが、細部まで作り込まれている印象を受けました。非常に『こだわり』を感じられる一作です。
そうした世界観や設定の緻密さ・壮大さだけでなく、登場人物達の感情や葛藤というものも丁寧かつ繊細に描写され、そういった部分での技量はとても高いと思います。『その場面でこのキャラは何を感じたか、何を思ったのか』を三人称の文章で過不足なく表現できるのは、並大抵のことではないはずです。それを成し遂げている部分に感服しました。見習いたいものです。
ただ、丁寧であるが故に――そして壮大な物語の『冒頭』でしかないという事実も相まって――ひとつの完結済作品として読むと、ストーリーの進行がスローペースだなと感じたのも事実です。
1話ごとの文章が1000文字前後と少なめ、ということもあり(Web小説では「長いよりは短い方が読みやすい」とされていますが……)、ページをめくってもめくっても場面があまり変わらず話が進んでいないな、といった印象も個人的には受けました。
そして意味深なシーンや伏線や謎が多く、それ自体は別に良いのですが、作品全体としての目的や最終的な着地点も見えにくく「結局誰が何をする物語なのか」を端的に言い表すのが難しい部分で、とっつきにくさや読みにくさが生まれてしまっているのかなと思いました。
とはいえ続編や今後のシリーズで、それらの謎や伏線が回収されていけば、凄まじいまでの盛り上がりや感動を生み出すのだろうなとは強く感じます。
全てを見届けた後に忘れられない名作になる、その『卵』であると予想できる良作でした。今後のシリーズ展開に期待が高まるファンタジー小説だと思います。
読み始めは「王道のファンタジーかな」と思っていたのですが、いやはやこれがまた硬派な戦記物の様相で驚きました。
神視点かつ歴史小説のような(作者が読者に語り掛けるような部分が入っているとか)語り口です。
のどかな村で、白翼猫のスカイや幼馴染み・ディックに囲まれて平和に暮らしていた少女・レイラは、きょうだいと離れ、父親が突然亡くなり、孤独な身となる。
そこへ王国の役人たちがレイラを捕えようと突然来襲。結果、住んでいた村が壊滅状態になる。
生き残ったのはレイラとディックとスカイだけ。二人と一匹は、日を置いてやってきたギルドの者たちと行動を共にすることになる――
時折挟まる回想シーンで名前が伏せられていたりして、ムードたっぷり。
レイラやディックの正体は次第に語られていきますが、このお話ではまだすべてが明かされていない模様。
壮大な物語を予感させます。
特にレイラの中にいる存在がとても気になります。
まだほんの少ししか出てこない彼女ですが、キャラ立ち抜群。善か悪かもまだ分からないのですが、そんな些細なことはどうでもよくなるほど、出てきただけで圧倒されました。
特にバトルシーンでは魅力が光っていると思います。
そして、最初ちょっと嫌な奴だったグレイですが、実はいい人ぶりがにじみ出ていて好感が持てました。
このお話の中では一番人間臭いというか、個人的に心を寄せやすいキャラです。
終盤、とある人物の裏切りにはとても驚きました。いい人そうだったのに……。
ここからの展開はとても胸熱でした。
エレミアの力を垣間見れたところもよかったと思います!!
この物語で、「王道」という言葉が持つ意味やイメージを時折、考えさせられました。
唐突に訊ねられたら、ヒーローがいて、ヒロインがいて、悪役がいて…という想像をしてしまうのですが、この物語を読んで、そんなものを想像してしまう自分の貧困さに気付かされました。
この物語を読み進めて感じる事は、昔、読んできた童話やお伽噺、また子供向けのハードカバーに描かれていたテーマでした。
衝撃的な展開、場面があり、主人公たちの苦悩が書かれているのですが、この物語に絶望や後悔は相応しくない言葉だと感じ、その点こそが「王道」なのだと感じます。
物語と同じく登場人物も前へ進む物語は、読者の記憶に刻まれたものと合致するものではないでしょうか?
登場人物も同じく、絶望も後悔も、ただ憶えている他家では根に持っているに過ぎず、記憶に刻んでいるからこそ新しい天海を迎えられる…だからこそ、この物語に王道を感じさせられます。