ちょっと麦茶買ってくる!

夏が、やって来る。次第に暑くなっていくこの時期に欠かせないものといえば“麦茶”。常時、冷蔵庫の中にストックしている御家庭も多いのではないだろうか。ちなみに麦湯とも呼ばれ、大麦の種子を煎じて作るものである。

その歴史は古い。平安期にはすでに存在したとされているが、昔は貴族や武士が好んで飲んでいたという。江戸末期頃には庶民の手に届くものとなったらしく屋台や茶店でも見かけるようになった。このあたりに今、我々が手にする麦茶の源流があるようだ。

ただし冷やして飲むという習慣は戦後になってから広まったもので、テレビ、洗濯機とともに“三種の神器”と呼ばれた冷蔵庫の普及が麦茶を夏の飲料として印象づける理由となったことは言うまでもない。その効能は血行促進、高血圧の予防、アンデッドモンスターの退治、熱中症の予防、魔力の復活とボケの改善、老人と若者との世代をこえた円滑な対人関係の構築など……いやー、某ペディアって便利ですねぇ(笑)。



『おばあちゃんは冒険者』。作者は佐月詩氏。とある事情で異世界に行っちゃうおばあちゃん、相田るり子(81)が紡ぐ物語。

普通、おばあちゃんが転生するなら、容姿もかつての若さを取り戻すもんじゃね?それが転生モノじゃね? と、佐月氏に麦茶、ではなく“茶々を淹れて”みたところ、“そんなものは不要ッ!”と一蹴された。どういうことか?

相棒、伊川翔(19)との掛け合いはジェネレーションギャップを感じさせ、おもしろい。とにかく読者から見た、るり子さんのズレっぷりが笑える。キャラや世界観も王道的な異世界コメディから上手くハズして書いているあたりが特徴で、従来の転生作品とは違うものを作ろうとする意気込みが感じられる。なるほど、わかったぞ。ならば萌えはいらぬということか。私は、まだまだ青いようだ(笑)

ギャップといえば、ある意味ズレの連携でバランスを保つ上級者のファッションみたいな小説だ。ほのぼのとした見てくれに騙されそうになるが、作家目線からはハードルが高いのではないかと思える。シャツをジーンズにインしたり、でっかい眼鏡をかけたり、スーツの下に白いスニーカーを履いたり、というのが難しいのと同じで、ハズすという作業は厄介なものだろう。それをこなす佐月氏の腕前に拍手! 今後の展開に大注目したいところだ。

さて、本作序盤の鍵を握るのが先にも述べた(慈愛の)麦茶。聖属性、滋養強壮、解毒作用、疲労減退、若返り効果と、もうこれがあれば異世界なんざ怖くない的な無敵のチートアイテムだ。ケアルとタルカジャとキアリーを合体させても、まだ足りないほどの万能さ加減を誇るこいつに専用の“手押し車”と“ヤカン”を合わせた異世界版“三種の神器”で駆け抜ける“新世代のおばあちゃん”相田るり子の活躍に乞うご期待!



……ちなみに、来たる六月一日は“麦茶の日”と定められている。それを間近に控えたタイムリーなこの時期にリリースされた本作品を読みながら、私も冷えッ冷えの麦茶を飲んでみるとしよう。ちょっと麦茶買ってくる!(笑)

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