当たり前に存在していると僕らが思っているこの世界。しかし、そんな世界にも、沢山の命の繋がりがあって、自然は命の連鎖で美しく輝いている。
生物はただ「生きている」のではなくて、そこには豊かな「生活」があるんだ。だから、どんな「生」にも、世界にとっては果てしなく大きな価値がある。
そんな美しさをまとった世界が突如として消え去ろうとしたとき、「生」を守れるだけの強さを失わずにいられるだろうか。小さくとも希望をしっかり胸に抱きながら、命のささやきに耳を傾け、微かに残る生活の光を絶やさないように、ただひたむきに世界と向き合うことができるだろうか。
箱庭の中には、未来に託された沢山の想いが詰まっていた。
――失われなかった希望と共に。
まるで童話のような語り口で描かれる小さな生き物の世界から、終盤にかけて急展開するその物語構成は、読み手の心を奪わずにはいられません。二万文字ちょっとの短編であるにも関わらず、そこに込められたメッセージ性の強さは計り知れないものがあります。世界はただ存在しているだけではなく、それは常に、そして既に物語が始まる場所なのかもしれません。
序盤は童話的なのどかで牧歌的な作品、と思いながら読み進めていくが、冬になって見事に小説となる希有な作品。
この作品の前半部分は、ある庭を構成し、守っていく生き物たちの物語。そして春、夏、秋に、それぞれ象徴的な小動物たちが登場し、人生にとって大切な物を心に残してくれる。例えば、「自分の役割は自分で考えることの重要性」や、または「自分の信じた道は開ける」といったテーマは作品に通底しているだろう。この優しく、皆が協力して、希望と光が溢れる庭がずっと続いていくと思った。しかし、冬になり、この庭の正体を知る時、読者はこれが童話ではなく、小説だったと気付かされるのである。
文章がとにかく秀逸で、まさにプロ級に美しい日本語でつづられる作者様の作品は、どの読者の心に刺さるはずです。
是非、ご一読ください。