毒を紡いだ静謐な文章

 青い梅の果肉に孕んだ毒を紡いだ静謐な文章のにおいに誘われて気付けば読み終えていました。無垢な罪も、残酷さも、善悪も、きれぎれな心も。人間の感情、という些細なものなど慮ることなく、世界は、季節は淡々と流れていきます。それらは別に人間の感情の都合で動かないものなのに、ひとは勝手に世界を都合よく解釈して、過ぎ去った時を、あの頃は良かった、という空虚な言葉に当て嵌めます。
 本作には、そんな甘い逃げを許さない犯した罪の葛藤が描かれているように思いました。呼び方ひとつさえも繋がれた枷となるそれに揺さぶられる感情は、愛への呪詛にしか感じられぬひたむきな愛を、絶望の果てにしか見えぬ希望を抱いた時に似ているのかもしれません。読むのが下手な私は多分どこかを読み違えているような気もして、レビューを書くのにためらいもあったのですが、ただひとつだけ確かなことがあって、私はこの作品が好きです。

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