桜の咲く頃、梅は散る

作者 坂水

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★★★ Excellent!!!

 青い梅の果肉に孕んだ毒を紡いだ静謐な文章のにおいに誘われて気付けば読み終えていました。無垢な罪も、残酷さも、善悪も、きれぎれな心も。人間の感情、という些細なものなど慮ることなく、世界は、季節は淡々と流れていきます。それらは別に人間の感情の都合で動かないものなのに、ひとは勝手に世界を都合よく解釈して、過ぎ去った時を、あの頃は良かった、という空虚な言葉に当て嵌めます。
 本作には、そんな甘い逃げを許さない犯した罪の葛藤が描かれているように思いました。呼び方ひとつさえも繋がれた枷となるそれに揺さぶられる感情は、愛への呪詛にしか感じられぬひたむきな愛を、絶望の果てにしか見えぬ希望を抱いた時に似ているのかもしれません。読むのが下手な私は多分どこかを読み違えているような気もして、レビューを書くのにためらいもあったのですが、ただひとつだけ確かなことがあって、私はこの作品が好きです。

★★★ Excellent!!!

特別いい作品を読むと世界が明るくなったような気がします。
いえ、私も書き手なので嫉妬なり焦りなりは抱えるべきはずのところ、なんだか救われたような気がして。この世界は広くて、こんなに素晴らしい作品があって、だから君はおよそその点において絶望しなくてもいいし、これから往く先君は孤独ではない、と。こんな感慨を持つのは甚だ傲慢ではあるのですが、そう言ってもらえたような気がするのです。

ではこの作品がどう素晴らしいのか、それを語るのはやはり難しくあります。圧倒的な小説の巧さでしょうか、散りばめられていく小さな違和感とその全てを回収する手腕でしょうか、思春期の些か若過ぎる男女の性を生々しさとどうしようもなく匂い立ついい意味での”いやらしさ”をもって描いていることでしょうか、物語の語り手たる主人公が後々まで重要なことを語らぬことによって謎を残しつつ彼の持つ罪悪感を描写していることでしょうか、波留の恐ろしいまでの感情が迫って来るあの圧巻のラストでしょうか、そうして物語を読んだ人間があまりに早く咲く梅を見た時のように、美しいとは思いつつ密かにそして確かに心に不安なものを持たされてしまうことでしょうか。

私はこうして羅列して語れた気にはならないのです。私の好きな作家さんの言うことには、「ある小説を本当に語るためには同じだけの文字数を費やすか、小説を一本書くしかない」ということらしいのですが、果たして私は11,081文字費やしたとしてこの作品を語り得るのでしょうか。恐らく答は「否」であろうと思います。そのことに呆然としつつ、そこまでの作品に出会えたことに得難い幸福感を覚えます。

どうぞ皆さんも読んでくださいと、そう白旗を上げる文言を残して締めといたします。

★★★ Excellent!!!

早熟な青い春の青春は、時に微笑み、時に怒り、時に悲しみ、そして忘れられる。

この物語の登場人物たちは、ある意味大きな事件のお陰で大人の階段を登れたのではないでしょうか。
たとえ、傷つき、取り返しのつかないことだったとしても。

幼馴染と親友の恋は、決して早すぎたものではなかったと思います。早すぎたのは、「逃げる」ことを選択してしまったことだけ。

青春、朱夏、白秋、玄冬――。
その中でも、やはり青春の魔力は大きいですよね。
活力は溢れているのに、地面が脆すぎるから転んでばかりです。

繊細な心を持つキャラクターたちを、これまた繊細な描写で描かれたこの作品は、まさしく青春そのものでした。

素敵な物語をありがとうございました。


にぎた

★★ Very Good!!

無邪気な子どもは、好き嫌いではなく単純な好奇心によって花を摘む。
花を摘んで実を結ばなくなり、それが己のエゴだと気づくことは稀だ。
しかし、年を経ればまた花は咲く。咲いた花はやがて実を結ぶ。
手を伸ばし、一口齧れば、体中に毒が回る。
梅の木は、大人しいようでいて、ジッとこちらを伺っている。

★★★ Excellent!!!

中学2年の春。目の前で幼馴染が友人に行った愛の告白。
早春を告げる梅の如く先走ったかのような周囲の流れに置いてゆかれる主人公の採った選択とは――

誰もが通過する、大人でもあり子供でもあり、大人であることを求められ、子供であることを求められるはざまのとき。
その揺れ幅の差はひとりひとりでおおきく違い、彼の描く波紋は彼女の描く波紋とは速度も大きさも異なってしまう。

良く知っていたはずの友人たちが発する様々な波紋。その波に共鳴できるまでになる時間はおろか、消化する時間すら与えられずに奏でられてしまう、くるおしく、不器用で、それでいてどこか美しい模様を思わせるお話でした。

あのころの痛々しさを思い出したい方はぜひ。

そして、このお話の美しいことばに感じ入った方は、是非、作者様の他のお話にも目を通して下さい。ふと気づくでしょう。綺麗な言葉に彩られた早梅だとかレーズンだとかお前いいかげんにしろよ、という思いに。


★★★ Excellent!!!

春の予兆として身近な梅。
しかしその花は、人々が桜を見に行く頃には散ってしまう……
そんな切ない梅の花に幼馴染の少女を重ねた、ほろ苦い短編です。
どこか奇妙でぎすぎすした主人公の心情が後半の回想によって説明される展開には、思わずはっとさせられます。
とても味わい深い、春にぴったりの物語。
オススメです!