ひとことでは言い表せない表現力と文章力

とにかく面白いです。残酷で惨く艶めかしく、読めば読むほどそのダーティな魅力の深みにはまっていきます。普段はあまり過激な作品を好んで読みはしないのですが、そんな自分でも一度感じた「面白い」という気持ちは一切冷めること無く、最後まで続きました。むしろ、熱は上がる一方と言っても差し支え有りません。

まずこの作品の大事な部分は、キャラクター間の関係性です。感情の矢印、とでも言えば良いでしょうか。○○が○○に興味がある、○○と○○はいつも仲が良さそうに見える、○○は○○を殺したいほど憎んでいる……そういったものです。この作品において、この矢印は一貫しません。そして、その矢印の原動力となるものは好意とは限りません。目まぐるしく違う人物へと向けられて、複雑に絡み合って、常に変化し続けます。しかしながら難解かというとそういうわけでもなく(説明下手な私が人に教えることは出来そうにもありませんが……)、順を追って読んでいけば、余程国語が苦手だったという方でも無い限りほぼほぼ間違いなく理解できると思います。これは作者様の技術が途轍もなく優れているという他ありません。矢印が変化するタイミングは非常に的確であり、また因果関係が凄まじく洗練されています。全ての事象に意味があり、変化し続ける関係性はさながらピタゴラスイッチでも眺めているような気分。普段からあまり本を読まない自分だからこそ思うことなのかもしれませんが、丁寧に書かれた作品なのだなと読んでいる最中に何度も思いました。

また、この作品の魅力を語る上でこれに触れないわけにはいかない、という要素は他にもあります。刑務所という空間、それと性と暴力の表現です。この三つに関して、まだ人生経験の浅い自分にとっては現実で自分に起きた出来事と重ね合わせて読み込むことはできません。(一生縁も無いかもしれません)ですから、この作品におけるそういった情景や登場人物の心の描写が、どこまで現実に近く、リアルに表現できているのかはわかりません。
ですが、それにも関わらず、この作品の文章には本当にこの世に存在しているかのような、生々しさや温度を感じます。三人称視点の淡々とした筆致だからこそ、それは壁や床、空気や臭気であったり、刑務所という馴染みの無い場所で生活をする人間の思考、行動、様々な部分において、現実を知りもしないのに「リアルだなぁ」と感じます。こういう場所で生活を強制された人間はこんな考えを持ってこんな行動をするのだなと納得させるような、上手く言語化できませんが、そういうものを感じました。稚拙な感想で申し訳ありません。

それから、これはほぼ余談のようなものなのですが。
私は、ツイッターで以前からこの作品の話題を色々な場所で目にしていました。そのため、どういうお話なのか断片的に予想が出来ていて、その予想は概ね正解で。それでもなお、読んでいて「こういう展開になるのか……」と裏切られたような騙されたような気持ちになった回数は、きっと数えきれません。それが具体的にどういった面で活かされたかと言うと、キャラクターの組み合わせ、所謂「カップリング」と呼ばれるものです。先ほども似たようなことを書きましたが、とにかく複雑でめちゃくちゃなんです。ですから、読み始めてすぐに気づきました。「あの人たちが言ってる女同士、なんか全然好き合ってねぇんだけど……?」と。そして同時に、もしもここからその組み合わせが成立したとして、はたしてこじつけめいたものを感じずに読み切ることが出来るのだろうか……と、若干の不安さえ感じるほどでした。それくらい、リアルタイムで追っている読者とその背中を追って読む読者にはキャラクターの組み合わせの受け取り方に差異があります。そして結果を言うならば、そんな不安は杞憂でした。ほんの少しの前情報が、かえってこの作品の魅力をかき立ててくれたように感じます。こんな楽しみ方ができたことを、とても光栄に思います。

こんな素晴らしい作品を読むことが出来て、私は幸せです。他の方の素晴らしいレビューと比べると拙い文章で申し訳ないのですが、これを目にした方がほんの少しでもこの作品に興味を持ってくださったなら、こんなに嬉しいことは他にありません。

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