愛の輪郭を辿って浮かびあがらせるような作品で、この文字数なのにしっかりと二人のキャラクターと愛情、関係性が伝わってきました。書きたいこととその表現がメタ的に噛み合い、更にそこへ造語というオリジナリティーを加えることで、ほかにない作品になっていると思います。この世で最も普遍的な概念は愛か死になると思うのですが、共感性を担保しつつ陳腐にならないことは高度な擬似が要求されます。この短編はその部分をしっかりクリア出来ています。この二人って与えるものと受け取るものなので、一見関係が不均衡に見えるんだけど、ちゃんと受け取って大事にしていることが示されるだけで読者の側もカタルシスが得られるんですよね。愛だよ。個人的には、耳馴染みのいい造語が作れることもセンスがあるなと。
(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=斜線堂有紀)
このお話は「意味のないものが嫌いだ」という主人公のモノローグから始まります。そして、タイトルでもありこの作品において非常に重大なキーワードでもある「バルキッシュジンジーグラウド」、この言葉自体には、特に深い意味はありません。これは作者の造語なので、検索したところで何も出てきやしません。絶対僕と同じことして「???」ってなった人、たくさんいる。
まずタイトルの掴みが強いです。「え、今なんつった?」とついつい興味を惹かれてしまうその文字列は、それこそ掃いて捨てるほど溢れ返るweb小説の作品群の中でも異質な輝きで読者の目を集めます。
作品内には、バルキッシュジンジーグラウドを含め聞き慣れない単語が多数登場します。当然その全てが無意味な言葉でありながら、読みながら口にすると妙にハマるというか、語感が素晴らしく良いんですよね。そんな非日常的な言葉も手伝い、とっても頭に残って中々離れないお話が出来上がっています。
そして、それらの言葉が織りなす二人の奇妙で淡い関係の変わり方が良いです。あんまり語るとこの作品の魅力を削いでしまうので控えますが、心に刺さると言うよりは、硬いもので頭を思い切りぶん殴られているような感覚の残る読後感でした。
しばらくは虚ろな目で「バルキッシュジンジーグラウド……」と呟くマシンになること必至です。僕はなりました。読みやすい文体の上に字数も少なめなので、おススメですね。
バルキッシュジンジーグラウド。