線、また一本
今日は、旧暦でいう冬。あと半月もすれば春。そんな頃だ。僕は懐古主義者というわけではないし、今に不満があるわけでもない、ただの読書好きなのだけれど、旧暦にあった四季を知っているひとが、今、どのくらいいるのかは分からない。
僕の変人扱いは今に始まったことではないから。僕にとっては普通の、そして面白いことが、他の人にはどうやらそうでないと知ったのは、ずいぶん前のことだから。スクールで、「もうすぐ夏が来るよ」と無邪気に言ったあの頃の僕を、今でも僕は恨んでいる。
「蜘蛛の糸」だって、きっと読んだと言ったら白い目で見られるのだろう。温室育ちの僕らにとって、あんな光景はたとえデータとしてでも、与えられることがないから。自分で手に入れようとしなければ手に入らない情報を持っていること自体が、もしかすると、「変」なのかもしれない。
でも、たとえば。
この池にこうして咲き誇る、うつくしい花の名前さえ知らないなんてことは、あんまりにも、もったいないと思うのだ。
ざらつく真っ白な紙に、僕はまた、線を引く。
それが何を生み出すことはない。
それが、僕に何をもたらすこともない。
非生産的で、そしていっそ反社会的ですらある行為だということは、理解している。それでもやめることができないのは、僕がわるい人間だからなのだろうか。
この蓮池に、「僕と同じ誰か」が来る日を願いつつ、「僕とは違う誰か」が来ることを恐れるのは、僕にその悪の自覚が、あるからなんだろうか。
白い紙に引いた白い線が落とす、影。
それを見てくれる「誰か」は、「どこか」に、いるんだろうか。
僕のあきらめが、そうしてまた糸を引く。
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