線と、
ねばつくインクが、また、白い紙に白い線を引く。
僕の諦めが、またそうして、影を落とす。
蓮はいつも、変わらない。変わらないで見守り続けてくれていることへの安心感と、少しくらい、変わってくれてもいいのに、なんていう、身勝手な不満が渦を巻く。蓮池はまるで僕の諦めを映し出したように、変わらない。
蓮は今日も、変わらない。
その時、ふと、真っ白だった紙に、僕がうみだしたんではない影が落ちた。ぶわ、と、無数に広がったしみのような影。それにつられて目を上げた、僕の視界に映ったのは、見たこともない花だった。
その花は、見たことのない色をしていた。
ふわふわと揺れながら、どこから来たのか、僕の紙に、僕のちっぽけな世界ともいうべき紙に、落ちてくる。ゆらゆらと降ってくるそれは、菊によく似ていた。
見たこともない、鮮烈な色。
その景色に、心がざわついた。生まれてから今まで考えたことのない心持だった。
僕のこの世界は、変わるのだという予感。それがもたらしたざわつきは、決して、喜びだけではなかった。「喜びだけではない」その他のものが、いったいなんという感情なのか。それが、どうしても分からなかった。
そして、初めて気付いた。
これが、赤色なのだと。
向かい風に、ぶわりと髪がふくらむ。
向かい風に、僕のシャツもまた、ぶわりとそれをはらんでふくらむ。それはまるで、ざわつく心が風に可視化されたように。
ざわざわと降り続くその「赤色の花」を、必死で手を伸ばして、つかみ取る。僕の手の中でくしゃりと潰れたそれは、手を広げるなり、すぐにまたぱっと、花弁を誇らし気に見せつけてくる。
たとえば、死の真際なんかに。僕はこんな気持になるのだろうか。なんて思いながら、僕はその手の中に捉えた花を、整形セラミックのインク壺から流したべたつく白インクの海に浮かべて、僕の世界に、押し込めた。
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