手紙、一枚




 蓮池で、私は毎日、手紙を書く。

 積み上げられた日々の手紙が、蓮池を囲う木々の中にひっそりと咲く百合の花の足元に、積みあがる。今までに何枚書いたのだか、もう忘れてしまったけれど。その手紙は山となって、もうすぐ、あの小さな百合の花の背丈を越そうかというほどになっていた。


 それだけの時間が経っても、私はまだ、ゆりへ別れを告げられないでいる。

 手紙の内容はいつも、他愛のないことばかり。今日スクールであったこと、ティーチャが私に言ったこと。今日は、あまり顔を見ない男の子と会ったから、そのことを書こうと思っている。そうして私は逃げ続け、毎日毎日、手紙を摘み上げるのだった。

 ゆりへの手紙は、いつも真っ白な封筒に入れて。私は、もらうお小遣いのほとんどを、その封筒を買うのに使っていた。もう誰も使わなくなったから、紙というものの稀少価値は上がる一方のようで。それを知ったのはあの日の次の日、私が初めて紙を使おうと、ゆりといつか話した、「文通」という言葉について調べた時だった。


 ゆりは、私よりもずっといろいろなものを知っていた。「何世紀か前の人たちは、気持ちを伝えるのに、お話をするだけじゃ伝えきれなくって“文通”をしていたんだって」と、ゆりが言ったのは、いったいどのくらい前のことだろう。私はそれを昨日のことのように思い出せてしまうから、もう、いつのことだか、ゆりと話したのが、どんなに前のことだか、考えるのも嫌になってしまう。ゆりが、過去のものになってしまうというのが、やるせない。

 時間は、容赦なく過ぎていく。

 季節があるならば、今をなんと呼ぶのだろう。


 ゆりなら、きっと知っていたのだろうと思う。

 ゆりはたしか、「春」が好きだった。



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