春風in春
原宿の陸上競技場は今日も青春アニメの中にあった。
「中2ー!横見てから渡れよ!」
「はーい!」
このゴム製の赤い色をした道路には信号が付いてない。だから衝突事故は起こるし、タイム計測をしていた熱心なレーサーは、怒りに満ちた目でこちらを睨みつけてくる。
「行きまーす、よーい、はい!」
今日も調子は最悪だ。最悪じゃないけど、最悪と思いたいんだってことくらいは分かってる。
あいつは速い。楽しそうだ。追い風に乗っているというより、風になって、追い風を起こしているように見える。俺の脚は、骨盤が曲がっちまったせいでまっすぐに足踏みすることすらできない。ちくしょう。俺も、風になりたい。
風のように吹いた、と描写されても違和感を覚えるだけのような足取りではある。けれど、これ以上ないくらいがむしゃらに暴れてやる。どこに移動するかも分からないような嵐を起こしてやろう。
おっと、なんか速そうなやつが追ってきた。ゴールはあと40メートルぐらい先にある。どうせ競うなら、勝ちたい。あのラインを先に踏みたい。どうすれば勝てる?最短距離の走り方。…簡単だ。まっすぐに、ただまっすぐ、あのラインまで駆け抜ければ。
俺たちは同じようなスピードで風になった。あんなに必死に走れたのは久しぶりだった。あの時、3レーンと4レーンは周りにどう映っただろう。強風、には及ばないか。春風、くらいか。
競技場に吹いていたのは、春風だった。俺は、春そのものだった。
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