画面ライダー

 相変わらず磨げ町の夕暮れはおもしろい。これで映画化されたシリーズは5作目となったが、最初の1回目から質が落ちていないことになにより製作者の熱い思いを感じた。

映画は、「どうでしたか?おもしろかったですか?」と、僕の顔を覗き込むようにスクリーンはゆっくりと暗くなって幕を閉じた。今まで、黒色で暗い場所を「何もない場所」と言い続けていたことの過ちに気付いて、醜いと感じた。僕は、目を開いても見えないものを、ないものにしてきたのかもしれない。

映画館を出て、唐突に「師匠を見つけたい」と思った。磨げ町の夕暮れの主人公は、中学生の時に当時無敵だったプロボクサーに、ボクサーを教わって日本一になった。師匠に言われた言葉を思い出して、相手に見事なパンチを決めた主人公の姿を自分に置き換えてみた時に、急に心が落ち着かなくなるような感覚にさらわれた。劇場内に響いていたBGMは、だんだんと音量を増していった。それにつれて、僕の心は激しく疼いていった。僕も現実でああなりたい、と自分の理想像を身勝手に膨らませていった。

最寄駅で電車を降りて、ふと「図書館に行こう」と思った。誰か、実在する作家で、憧れるような文章を書く人を見つければ、勢いでその人に電話して、文章の書き方を教われるような気がしたのだ。そんなことができるわけない、という気持ちを残して、僕は蒸し暑い図書館の中を、米津玄師のピースサインを聞きながら歩き回った。

ある程度本を取っては中身もろくに見ないでパラパラしてから戻す作業をこなして、やっぱり面倒くさい、と思った。

画面の中にいる人たちは、僕のような人間にはできない決心をしたことがあると思う。でも、その決心は、必要不可欠なものであったわけではないと思う。決心なんてしなくても、平和で穏やかな生活をすでにしているからだ。僕もそれだから図書館を出る。財布に残っていた100円で缶のミルクティーを買って飲む。こうやって過ごしていれば、いつか天から、画面の中へ引き連れてくれるような大きな手が舞い降りてくると、勝手に信じ切って安心しているから。

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