ミルクティーのこぼれたB5版コピー用紙

 どっちがいいだろう。コピー機を挟んで緑色のコピー用紙の袋が並ぶ。左手をけがしていたら、B5だったかもしれないけれど、今日はなんとなくA4の気分である。

濃い緑色のマーカーで、何重も塗り替えされた単語を、真っ白なコピー用紙にしがみつくように並べた。

30個ほど縦一直線に並べたところで、「necessary」が入りそうになくなった。本当だったら、普通だったら、もう一度一番上まで攀じ登って、少し右にずれて下っていくんだ。でも、僕には、その勇気がなかった。一度いた場所に、二度とは帰りたくなかった。視界に掛け時計と絵画が映って、間違い探しの答えを見つけて僕は嘆いた。


 お茶はどうやら始めはどれも同じ茶葉だそうで、緑茶が苦手な僕は、ミルクティーを飲みながら少しがっかりした。

今度こそはと思い、左手で意地悪くB5の紙を3枚ほど取って、椅子に身を放り投げた。


あっ


ミルクティーが勢いよく机にこぼれた。茫然としながら、それらをあえて濡れもしなかった幸運なB5の紙たちでごっそり拭き取ってやった。

予想通り机はべとべとになって、「もう僕の上には来ないで下さい」と言ってくれた。心の中で「絶対戻って来ないからな」と言って、リビングのパソコンを開いてwordを立ち上げた。早くこの気持ちを書き込みたかったけれど、サイズ指定の画面でふいに手が止まった。いいんだ、最後に変えてしまえば。そう思って、パソコンの台にできていた隙間を埋めるべく、僕はコンビニへ飲み物を買いに出かけた。紅茶にはしてやるまい、と思い、無理に濃さそうな緑茶を買った。コンビニを出て、夜の澄んだ空気を吸った時、やっと笑顔になれた。そして同時に、A4 もB5も、紅茶も緑茶も、大して変わりがないことに気付いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る