結婚式の悲劇

 「そろそろ出るよー!」

今日は僕のお母さんのお兄さん、つまり僕のおじさんの結婚式だ。「結婚式」と言われて思い浮かぶ風景が、ドラマで観た主人公の結婚式の様子である理由は定かではないが、一つ言えることは、僕は今まで結婚式という場にいたことがないということ。それだから、ドラマの風景しか思い浮かばないし、自分が存在していい場所なのかどうかも分からなかった。

 黒い靴は履くものじゃない、と思うようになったのはいつだったか。中学生になって制服を着るようになったら、靴も革靴や黒い靴を履いて登下校をしなければならないのを知った上で、最近まで僕は真っ白なスニーカーを履いて登下校を繰り返していた。けれど、一週間ほど前に先生に3回目の注意を受けて「さすがにまずい」と感じて断念した。黒色のものなら許されるらしく、黒っぽいシューズを履く毎日の中、二度と革靴とは関わらないだろう、と踏んでいたけれど、今になって再び革靴に纏わりつかれることになってしまった。またか。


「そういえば、『必』って字の書き順、私今まで七十年間間違えたままだったからびっくりしちゃったわ。」

「あれって真ん中の点からじゃなかったかしら。」

「え、私左の点から書いてるけど。」

「多分世代の差だろうね。最近の若者たちはどう習ったの?」

「いや…最近はパソコンで打てちゃうから書き順は重視されないんですよ。」

結婚式とかお葬式とか、若者の僕たちは変に上から見られているように感じる。それがちょっと窮屈で、だけどそういうものなんだ、と今は思う。若者は若者らしく。そうだ、中学生なんかが革靴なんて堅苦しいものを無理して履く必要なんてない。若者は若者らしく、真っ白なスニーカーを履くのが正義なんだ。そんなことを考えながら、僕は炭酸の強めなジンジャーエールを飲み切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る