カラオケ

「白佐ー今日カラオケ行かね?」

「え、今日?どこで?」

「新宿のビックエコー」

「2人で?」

「いや、男子校でそんなセリフないだろ。俺とあと中山と桃下も。」

ザルちゃんは呆れが混ざった顔で笑いながら言った。明日からテスト休み。そのあと終業式を挟んで夏休みに突入するから、実質明日から夏休みのようなものだ。


家で友達とオンラインの将棋対局をしようと約束していたけれど、さんざん将棋を馬鹿にされて心が折れた。

「俺カラオケ結構久しぶりだわ。」

「あ、まじ?俺先週も来たけど。」

「は?それテスト直前じゃね?お前ほんとどうかしてるって!」

腰を曲げたおじさんの、メガネ越しの鋭い視線を感じながら、せめて自分だけでもと思って口を閉ざし続けてカラオケの受付までたどり着いた。

「フリータイムでいいよな。」

「ドリンクは…」

「フリータイムの場合、お飲み物は飲み放題となっております。」

「あ、じゃあフリータイム4人で。」


案内されたのはいつもと同じ208号室だった。どうやら208号室には見野瀬中の生徒が入れられることが多いらしく、噂では先生たちが監視するためのカメラが取り付けられてるのだとか。

「はい中山からどうぞ!!」

「なんで毎回俺が最初なんだよ。」

中山がMr.childrenのHANABIを歌い出すと同時に、僕たちは始めから打ち合わせしていたようにカラオケボックスから出て飲み物を取りに行った。

昔友達に教えてもらった通りにコーラ2割とメロンソーダ8割を混ぜたグラスを持って再びカラオケボックスに入ろうとした時、防音されているのかどうかも疑うような大きな声で叫んでいるのが聞こえた。気になってザルちゃんと音の鳴る方へ足を運ぶと驚いた。


しーあ!わせぇぇが いちにちでもうおおく しょばーにあぁりますよに!


さっきの腰を曲げたおじさんだった。ソファから立ち上がって、一生懸命に星野源のFamily Songを歌っていた。年を重ねたら、あんなおじさんになれればいいな、と言うと、ザルちゃんはいつものように呆れたように笑って「ただの気狂ったおじさんじゃねえか。」と言った。2割くらい面白がって言ったつもりだったけど、8割くらいは真面目に思ったことだった。

よし、歌ってやろう。気合いを入れて飲み物を口にした。立派なメロンソーダの味だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る