過渡期のあやうさをすくいあげる

中学生の頃の記憶は、正直言って、あまりありません。

そう思っていました。でも、この作品を読んでいると、思い出さないように蓋をしていただけかもしれないと気づきました。

小学生は、まだ、こども。

高校生は、ほとんど、おとな。

じゃあ、中学生は?

――初めて着た制服は分厚い生地がずっしりと重かった。上の学年のひとたちを「先輩」と呼ぶようになった。長い髪の毛は結ばなくてはならなくなった。好きな人の話で盛り上がった。性的な話を意識するようになった――

思い出は存在していました。あまりにまっすぐで澄み渡りすぎて、思い出すのが辛い、そんな思い出ばかりでした。

中学生という過渡期、理解の追い付かないからだの変化、定まらないからこそ振り子のように揺れ動く心。手に取ろうとするとあわあわと消えてしまいそうな思いを鮮やかに結晶させた作品です。

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