沢渡くんと織絵ちゃんの、新たな一歩

不特定の相手と一夜限りの肉体関係を繰り返していた沢渡くん(実は織絵ちゃんも)は『総務課の沢渡くん』で、恋人のいる人に恋に落ち、人を愛する甘美さと苦しさを痛感します。後日譚となる『総務課のアレサンドラ』、『キャッチボールをしようじゃないか』で、愛を交わし合える相手を見つけ、誠実に向き合おうとしはじめるのですが、どこかまだ、愛するということの入口でとまどっているような雰囲気を感じていました。

本作で、その沢渡くんがようやく気持ちに一区切りをつけ、織絵ちゃんと「継続的」に肉体関係を持つことに同意します。

「エロ小説家」を標榜する亜咲加奈さまと交流するようになり、エロって今まで思っていたよりも面白そうだと興味がわいてきました。本作で沢渡くんと織絵ちゃんが行うセックスは体を介した交流であり、相手を知り自分を知ってもらうための手段という印象を強く受けました。この先、ふたりが馴れあってしまったなら、快楽目的のもっと生々しい「エロ」へと進むのかもしれませんが、現在の二人のセックスには目的を持った理性的なにおいが強く感じられます。

興味深い位置づけの一作だと思います。