オンネトーの湖面のように
- ★★★ Excellent!!!
十六歳のセジは、親から逃れ、小さなアパートでバイトを重ねながら自活している。電気関係の専門学校に通う二年生だが、当然のことながら、未成年がひとりっきりで生きていくのは容易なことではない。まるで、常に細い塀の上を目隠しして歩いているようだ。人懐っこい彼は周囲の人たちに愛され、なんとか生活を破綻させることなくぎりぎりのところで踏みとどまっている。
本作の語り手である顕花、セジのバイト先の店長の野木晋二郎、バイトの同僚の友梨奈、保護司の野木知坂、造園師の箕面伊知、それにセジの近所に住む人々は、奇妙なほどセジに引きつけられ、機会があれば彼をサポートする。
セジとかかわりを持った人々の目を通じて語られるセジの印象は、それぞれ異なる。親に対する悲しく強烈な忌避感、諦めきった静謐な冷たさ、茶目っ気、周囲の人を照らす太陽のような明るさ。顕花はセジとあわあわとした濃密な時間を持つが、彼女の目に映るセジは、日ごとに移り変わる。友人たちが力強く新しい命を育んでいくなか、ひとり病の治療のみに生活のほぼすべてを費やす顕花。彼女は彼を理解していく中で、見失いかけていた自分自身ともう一度向き合うことになる。
顕花にとってセジは自分を見つめるための鏡のようだ。少し曇って、見る角度により色合いを変化させる青い鏡。じっとのぞき込み、目を凝らすたびに、これまでとは違う自分の姿が浮かび上がる。きっとそれは顕花だけでなく、セジとかかわりあったすべての人にとってそうなのかもしれない。
セジは本当にいたのだろうか?