幻想的で美しくて、ちょっと切ない一人と一匹の旅路を記した物語です。
魔法使いの青年アルルは、言葉を話す黒猫と出会う。
アルルはなぜか倒れていたようで、服には血もついているが、何が起こったか覚えていない。
眼前の猫はひたすら自分に名前をつけるように要求する。
名前をつけた後ならば、何が起こったか教えてくれると言うので、アルルは名前を考え出す……。
そんなところから始まる、青年アルルと名付けられた猫ヨゾラの旅の物語です。
この物語の醍醐味は、なんと言っても情景の美しさ。
アルルとヨゾラの旅する先は、輝かしい風景でいっぱい。
そんな情景が、事細かに説明されるのではなく、読んでいるうちに読み手の頭の中に自然と浮かんでくるのです。
人々の生き生きした会話も情景のひとつ。
メインキャラクターから名前のないキャラクターまで、生命力溢れる人々が魅力的です。
また、魔法や「見える人にしか見えない不思議なモノ」の描写も独創的でファンタジック。
ヨゾラはいったい何者なのか? をはじめとする、ちりばめられた謎も、物語を飾る神秘の一つです。
お祭りの夜に、この世界とくっついている「向こうの世界」に紛れ込んでしまうような、浮遊感を楽しめる物語です。
他では決して見られない、綺麗な世界観にうっとりと酔いしれてください。
魔法使いの青年と、しゃべる黒猫の出会いは、ささやかな運命の福音。
何故か、河沿いで倒れていた青年、アルルはしゃべる黒猫と出会う。黒猫にヨゾラと名付けた彼は、気を取り直して仕事にとある街を向かう――ヨゾラと、共に。
その街は祭りを目前に控え、楽しく和気藹々としていて、出会う人々は優しく楽しく接してくれる。ヨゾラも気を良くしながら、アルルと行動に共にする。
その先々で耳にする不穏な噂。そして、知り合った青年が突然、暴漢に襲われ。
祭りまでの滞在予定だったアルルは、ヨゾラと共に不気味な騒動へ巻き込まれていく――。
彼らが自由気ままに旅する中で、出会う不思議の数々。
ふんわりと柔らかく、だけど時に切なく、苦しく、寂しい真実。
その物語の中で、彼らは何を見て歩くのだろうか?
黒猫ならではの視点やキャラクター性。それに付き合う、お人好しなアルル。
二人を取り巻く世界は、いつも優しく、そして謎を含んでおり、それを丸ごと包み込むような優しい文体で書き起こされていく。
魔法使いと黒猫。二人と共に、不思議な世界を旅しよう。
とか思うでしょ?
ちがいますよ。
これはそんな軽いノリで作られたお話ではないのです。
作者は本気です。本気でこの世界を作っています。
魔法が本当にあるのなら、どういう使われ方をするのか。
使える人はどんな人か。
人でないのはどんなものか。
そこに住む人々の歴史と文化と民俗。
お金の測り方や距離の単位、言葉の仕組み。
すべてが考えぬかれ、納得できるものばかり。すごい!
でもね、小難しい話じゃないのです。
ていうかキャラがかわいすぎなのですよ。
ヨゾラかわいいよ〜猫(?)のヨゾラがかわいい。のに!
ふとした瞬間におそろしげなものがかいま見えて、こわいのにやっぱりかわいい……なにこれ新感覚!!!
そして魔法使いのアルル!
ぜんぜんイケメンキャラじゃないのに(ぺたんこ鼻!)かっこいいってどういうことなの?!
ああ、もう、好き!!!
過去、高度に発達した文明があり、現在はそれらの知識は失われつつも人びとが暮らしている、、という世界観は宮﨑駿を彷彿とさせます。
しかしこの世界は完全なるオリジナリティにあふれています!
ゆったり進むシリーズもの。
けれどきちんときりのよいところまで書いてくださる作者さまは、とても誠実なお方なんだなあと思います。その誠実さは、キャラクターたちにもよくあらわれています。
ぜひご一読を。
きっと楽しめると思います。