異世界ファンタジーに求めるもの。それはやはり魅力的な世界を読者に見せてくれることではないでしょうか。
そう言った視点で言えば、色彩豊かなどこか懐かしい世界観や、現実の人間がそのまま小説に入り込んだような人々の機微。そして、それに触れる主人公たちの感情豊かな描写はまさしく“異世界ファンタジー”の面白さを存分に魅せてくれる、ファンタジーの一つの極致であるのではないか。そう感じさせられました。
また物語で描かれる事象は善悪では割り切れない、語りつくせない。
当然だと思う出来事が、視点を変えれば強烈な違和感となるような。
僕らの、心に訴えるとても儚く、優しく、恐ろしいエピソードはきっと、
真に純粋だったあの頃の僕たちの記憶に、情動にと訴えかけてきます。
そしてなんといっても、主人公の一人であるヨゾラ。
彼女の可愛さは、この小説にさらなる色付けを施しています。
独自の視点でつづられた極上の異世界ファンタジー。
読めば必ず彼らの見る情景が、眼前に広がること請け合いです。
魔法使いの青年アルルが目覚めると、目の前にはしゃべる黒猫がいた。
しゃべる猫なんてそう珍しくもないけれど、その黒猫はやけにしつこく名付けを要求してくる。
仕方なしに黒猫に「ヨゾラ」と名付けたアルル。
よく分からない奇妙なことは多いけれど、出会った1人と一匹はなんとなく寄り添って、一緒に歩き始めることにした。
一人と一匹の二人旅。
このワードだけで惹かれる人はいるのではないでしょうか。
私もその一人です。
人間と不思議な存在の組み合わせは王道ともいえるでしょう。
それにも関わらず惹かれてしまうのは何故でしょう。
しかしながら、このお話。王道と一言で片づけるには勿体ない。そういう他ありません。
アルルとヨゾラが旅する世界には魔法が存在します。
一部の人にしか見えない不思議な存在たちも一緒に暮らしています。
しかしながら詳しい説明はされません。それでも何となく分かります。
アルルやヨゾラの視点にたって、こういうものなのだ。そう想像することができ、2人の旅を後ろからついて歩いているような気持ちになります。
旅にはいろんな感情がつきものです。
驚いたり、喜んだり、笑ったり。どうしようもなく悲しい事があったり。
そんな様々な出来事の積み重ねが2人の旅を彩ります。
当たり前のように寄り添う謎も世界観を引き立て、この先2人の旅がどういった結末を迎えるのか。楽しみで仕方ありません。
まずこの作品の数話を読んで抱いた印象は、まさに表題に書いたとおり、静かにえぐってくる、というものでした。筆致は抑制されていて、たまにヨゾラ視点になったりもするけれど基本的にはとても客観的な視点で描かれていて、取り乱すことがない。でも中身を読んでいくと、そんな中にバンバン絶望や痛みや苦しみを詰め込んでくる。と同時に、希望も優しさも悦びも同じ筆致で描かれる。この安定した語り部がいるからこそ、作品中の雰囲気がシックでかつ同時にビビッドであり、善意にも悪意にも説得力が芽生え、時には人の命を脅かすような存在にさえ共感させられる、そういった絶妙なバランスが生まれるのだろうと思いました。
使い魔をはじめとした愛すべきキャラも、悪意を持ったキャラも、ストーリーの都合に合わせられるのではなく、個々の意志を以て動いていると納得させられ、より大きな共感に繋がったと思います。とにかく、この作品のタイトルにもなっているヨゾラのキャラクターが楽しい。もう片一方の主人公であるアルルも、普段はクールぶっていつつもまだ未成熟な部分を抱えた人間くささが見え隠れして、この二人(?)の掛け合いと物語を引っ張る力に、ついついページを手繰る手が急かされてしまいます。
これで第一部完とのことですが、これからも彼らの旅は続いていくのでしょう。続きが読める日を楽しみに待っていたいと思います。
レビューを書きたいと思って筆をとったのに、何を書けばいいのかまるでわからない。
言いたいことがいっぱいあるのに、文章にしてみるとどれも違うんです。ちがうそうじゃない、ってなる。結局「いいから読んでみて!」ってやりたくなる、そういう単純には言い換えのきかない面白さ。どう言えばいいのだろう。以下、レビューのふりした一読者のなにかひどく迷走したなにかです。
例えば、登場人物のひとりであるヨゾラさん。この子がとてもかわいいのです。間違いなくかわいいのだけれど、でも違う。単純に「かわいい」という形容だと、言いたいことの一割も言えていない。そんな感覚。だって「かわいい」っていろいろあるもんね、と、もうそんな次元ではないのです。
彼女の言葉や、振る舞い。どれをとってもものすごく自然で、とても生き生きしていて、生々しい。作られたキャラクターではなく、一個の実在としての魅力を感じる。と、説明するとしたらたぶんそんな感じになって、でもこういうの長々言うこと自体がもうなんか違う、それくらい自然でつまり「もういいから読め」ってなります。
そしてその人物の自然さは、なにもヨゾラさんに限った話でなく。全員がしっかりとした存在感を持っていて、当然キャラ立ちはしているのだけれどでも「キャラ立ち」って言葉だとなんかニュアンスが違う、そうじゃなくてもっとこうああもういいから読んで、という、もはやレビューの体をなしていませんがでも自分のせいじゃありません。この作品が悪い。面白いのがいけない。
もうどうにもならないのでざっくり紹介するとすれば、異世界ファンタジー作品です。がっつりどっぷり浸れるファンタジー。魔法とかのわくわくする設定がいっぱいで、それが結構なテンポでもりもり出てくるのに、全部自然にもりもり楽しめてしまう。するりと物語世界に乗っけてくれる。自然で優しい文章と、そして五感に訴えかけてくる描写の鮮やかさ。
ストーリーに関してはあえて触れませんが、保証します。読みたいもの、きっと我々がファンタジーに求めているもの。しっかりきっちり詰まってます。事実、第一部のクライマックス付近、のめり込みながら一気に読み進めました。
ここまで書いたんですがなんかもうやっぱり全部違います。うん違うそうじゃない言いたいこと全然言えてない。そうじゃなくてあの、もっと、こう、自然で、優しくて、こう、いい。とてもいい。本当、どうやったら「この感じ」が伝わるのか、自分にはまるでわかりません。わからないので開き直るのですけれど、こんなの説明できなくて当然です。
別の言葉で説明なんかできない、そういう面白さこそきっと『小説の面白さ』なんだろうなあと。
この作品を読んで、そんなことをぼんやり考えました。だから読もう。読んで。ぜひ。
レビューつっても、最終的に「いいから読め」としか言えないんですよね。
そのことについては先に謝ります。
ごめんね。
とにかく、プロローグだけでも読んでください。
言ってる意味がわかると思います。
嘘、ごめん。
やっぱ最後まで読まんと損するわ。
この作品、語るべき魅力は本当に沢山あって、綿密に築き上げたであろう世界観の設定だったり、キャラクターたちの生き生きとした豊かな個性だったり、本当に語り続けるとレビュー終わらないんです(まあ、その辺は他の人がすでに書いてるから、そちらが参考になると思います)。
個人的に一番震えたのは、作中二回あった太鼓のシーンですね。
というのも、ぼくたちは基本的に『視覚』で小説を読みます。
目で受け取った文字を、脳に送り込んで情景を想像し、物語を楽しむわけです。
けど、この太鼓のシーンがすごかった。
音がリアルに聞こえてくるんですよ。
視覚で読み取った文字列が、一度『聴覚』を経由して脳に届くんです。
一応ぼくの脳は正常だと思いたいので言い切っちゃいますが、作者の書く文章からは、《《音が聞こえます》》。(カクヨム記法)
そのくらい臨場感のある描写なんです。
「アホ抜かせ」とお思いでしょうが、騙されたと思って読んでみてください。
ぜひあなたの目で、そして耳で、その衝撃を確かめてください。