羽衣子
アルバイトに行く必要もなくなったのに、同じ時間に目覚めた羽衣子は、パジャマを着たままちびちびとインスタントコーヒーを飲んでいた。座卓の前にある小さなテレビでは朝のワイドショーが放映されていたが、まったく頭に入ってこない。
早く仕事を探さないと。
羽衣子の頭の中を占めているのはそれだけだった。
「はあ」
さっきから出るのはため息ばかりだ。背中を丸め座卓に片頬をつける。
「はああ」
もう一度深いため息をついた後、羽衣子は目を閉じた。
ワイドショーでは白熱したやり取りが交わされていた――
「はい、こちら現場の〇〇公園です。規制がかかって中に入ることができません。残忍な手口はつい三日前に起きた殺人事件と酷似していて現在警察が調査中です」
「そちらの地域の方はいまどうしているんですか?」
「はい。小中高すべて、きょうは臨時休校です。住民の方にも外出はできるだけ控えるよう注意を促しています」
「それはいつまでなんでしょうか」
「この先のことは検討中だそうで、早期の事件解決が望まれています」
「ご苦労様です。また新しい情報が入ったら知らせください。
ほんと、怖いですねえ。
昼間は散歩コースでお年寄りや子供連れの家族が多い公園だそうですよ。身近な場所でこんな事件が起きたらたまりませんよねえ。
では住民の声を聴いてみましょう」
『いや~怖いですね。ちょっと前にもありましたよね殺人事件。でも犯行時間は夜なんでしょ。だったら今外出しちゃっても問題ないですよね』
『ずっと続いてるよね。ったく警察何やってんの? まだ犯人捕まえられないの?』
『友達がね、犯人見たっていうの。塾の帰り。あっ、昨日の事件じゃないよ。えっと、その前の前だったかな――男の人が――』
羽衣子があくびをしながらリモコンでテレビを消す。
「あーあ、焦っても仕方ないよね――も一回寝よ」
眠そうな顔でベッドまで戻ると二度寝を始めた。
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