羽衣子
冷蔵庫に食材を入れながら羽衣子は柳から借りているスマホをポケットから取り出して眺めた。
お洒落なシャンパンピンクのスマホは機械音痴の羽衣子にはまだ使いこなせていないが、借り物というよりプレゼントされたような気がして思わず頬がほころんだ。
だが、事実は借り物に違いない。こんな自分に誰がプレゼントなどしてくれるものか。
現実に目を向けると羽衣子の表情は沈む。
すごく親しくしてもらってるけど、柳さんは仕事をしているだけ。そこはきちんと頭に入れとかなくっちゃ。
スマホをポケットに滑り込ませると袋に残っていた食材を放り込んで冷蔵庫を閉めた。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「はーい。柳さんですか?」
返事をしながらドアの前に立つ。
こんな時間に羽衣子を訊ねてくる知人など今までになかったので柳のはずだが返事がない。
「どちら様ですか?」
それにも返事はなく、もう一度チャイムが鳴った。
「柳さん?」
今度はコツコツとドアがノックされた。
どうしよう? もしかして柳さんに何か声の出せない事情があるのかもしれない。
「柳さん?」
羽衣子は覗き穴で確認した。
魚眼レンズがいつもの景色を映している他は誰もいない。
柳ではない誰かがあきらめてすでに去ったのかもしれない。
胸を撫で下ろした途端、コンコンと再びノックの音が聞こえた。
「や、柳さん?」
羽衣子も二回ドアを叩いてみる。
同じく二回返って来る。
コンコンコン
三回叩くと三回返って来た。
「柳さんですよね」
そう言ってコンと叩くとコンと一回返って来た。
やっぱり声の出せない事情があるんだ。
「おかえりなさい」
羽衣子は開錠し満面の笑みでドアを開いた。
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