壊剣のロストメモリア

「どうして僕は、この世界に生まれたんだろう」
　雪の降る寒空の下、地竜と対峙する少年は独り呟いた。
「どうせなら、争いだけしかない世界に生まれてきたくなかった」
　天から来訪せし災厄の煌き——天硝子《アマガラス》の脅威にさらされた世界。人類にはもはや術はなく、最後の大陸マイソシアでのみ、人は生きることができた。
　代々王家に仕え、東のサラセンを守護する領主の息子・アセラは、ある物を探していた。かつて自分はそれを持って生れ落ち、しかしいつの間にか失くしてしまった——生きる意味。世界の脅威を排し王家を護ることこそ我らが主命、と言われてきたからこそ、今ある自分の心が空っぽであるかのように感じていた。
　空虚な胸の内に疑問を抱きつつ、今日もまた、少年は意味無き剣を振るう。
　生まれてきた意味を探す異世界ファンタジー、ここに開幕。