第一章『壊れていく世界に産声を上げて』8

「エテルネルの言っていたことに間違いはないようだな。もう暫く待てばじきに、天硝子アマガラスも落ちてくることだろう」

 よくやったとばかりにプレイアの頭を撫でるギリアム。

『アセラ、私も私も』

 エテルネルが声を上げる。

「後でいっぱい天硝子に擦り付けてあげるから、それで我慢しようか」

 アセラは聖剣エテルネルの白い柄頭ボメルに手を載せる。

『女心を分かっていないですねぇ。だからメイメルに振り向いてもらえないんですよ』

「今は関係ないだろ……それはさておいて、エリエと連絡は取れる?」

『さっきからしきりに発信はしていますよ。しかし、これは……』

 既に連絡を取ろうとしているのならば話は早いだろう。エリエとも連絡が取れれば、天硝子が墜ちてくる前に合流し、撃墜を行うことができる。

 言葉を濁したエテルネルはその続きをなかなか紡ごうとしない。ゆっくりと緑柱石エメラルドを明滅させ、しばしの沈黙。

 そして、

『東サラセン観測所から本部への緊急通信を傍受——天硝子、墜ちます』

「なっ————————」

 驚きの声をアセラが上げきる間もなく、轟音がその声をかき消した。

 白い煙が舞い、吹き飛んだ石が厚い衣服の表面を叩く。薄着をしていたプレイアはギリアムのマントの中に庇われ、アセラは腕を掲げて目を覆う。

「ちっ……急すぎるお出ましだな」

 ギリアムが小さく毒づく。マントの隙間から伺うようにしてプレイアが顔を出す。

「ぴよ……鳥さんです。しんわの鳥さん、ふれーすヴぇるぐ、です」

 視界を覆っていた煙が吹き飛ばされるように晴れた。爆風とは違う、明確な敵意の込められた風圧が叩きつけられた。そして、目の前に天硝子が姿を現した。

 プレイアやエテルネルの言うように、その形状は鳥獣。ただその全身を覆うのは柔らかな羽毛ではなく、白い炎。白鳥のような白さの身体を燃やし、自身がまるで一つの炎であるかのように、それは悠々と宙に滞空していた。

「こいつが今回の天硝子か!」

 その羽ばたきは全ての邪を退かせ、正しき道に人々を導く神鳥——フレースヴェルグ。

 伝説にそう言い伝えられる神獣が、目の前に害敵として君臨した。

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壊剣のロストメモリア 星宮白兎 @hoshimiya8910

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