第一章『壊れていく世界に産声を上げて』7

 さながら、砂と岩で埋め尽くされた氷海に立ち尽くしているかのよう。

 自分が今何をしているのか——それすら、遠い日の出来事のように感じて。

「今回の天硝子アマガラスは、一体どんな形だろうね」

 アセラはそう、今に目を向けようとギリアムに聞いた。

 ギリアムがそれに応えようとする。しかし、それより先に、

『今回は鳥型の炎鳥です。先ほど東サラセン観測所から本部への暗号通信を解析しました——ふむ、伝説の中でも有名な神鳥フレースヴェルグらしいですね』

 剣帯に提げられたエテルネルが口を出した。

『ふむ、ふむふむ。当初の予想墜落地点に変更が生じるようです。紅の岬から西に十キロ——ちょうど、あそこの一際目立つ岩尖がんせんのあたりですね』

「……それって立派な規律違反なんだけど」

『いえ、バレなければ何ともありません。それに、じき伝令が飛んでくることでしょうし』

 ほら、噂をすれば——とエネルネルが言うと、

「————…………ぴこーん。伝令を受信した…………ふぁ」

 気の抜けた可愛らしい声が、ギリアムの方から。

 アセラの視線を向けられたギリアムはと言うと、マントの前側をめくっているところであった。

「起きたか? プレイア」

 ギリアムの腕の中で眠っていた白髪の少女が目を覚ましていた。宝石のように綺羅と光る、深海のような深い蒼色の双眸をキョロキョロと逡巡させ、覗き込むようにしているギリアムの視線とかち合うと、ニコリと微笑む。

「にっこーり……おはよう、おにいちゃん」

「ああ、おはようプレイア」

 プレイアと呼ばれた少女は腕から足を下ろし、砂の地面へと慎重に着地する。

 陽が当たるとはいえ冷たい風の吹く冬の昼どき。遮るもののない地にシャツ一枚、プリーツスカート一枚で降り立つ、眼鏡を掛けた少女。

 背丈はギリアムの半分もない。腕や脚は華奢で触れれば折れそうで、吹いた風に飛んで行ってしまいそうな儚げな雰囲気を纏っている。

「ぺこり……おはよう、たいちょう、えてるねるちゃん」

 腰を折り、アセラとエテルネルにプレイアはお辞儀する。

 一本にまとめた髪が、肩を通って前側へ。

『おはようございます、プレイアちゃん。完全覚醒ですね』

「おはようプレイア。よく眠れたかい?」

「……すや。ちょっと寝たりないです」

 目元を擦り、フラフラとよろけるプレイア。

 幼いながらに、ギリアムと行動を共にする聖剣ヴィタールである。

「……ぴこんぴこん。たいちょう、さきの伝令です」

 ぴょこりとハネた毛を上下させ、プレイアは胸の前で両手を組む。

「……ひやひや、天硝子はこの周辺におちてきます。なので、げんかいたいせい? でこれを討ち墜とせ、だそうです。ぴよぴよ、鳥さんの形らしいです」

 ゆっくりとした口調で、一言一言丁寧に伝令を伝えるプレイア。

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