第一章『壊れていく世界に産声を上げて』5

 その声にアセラは振り返る。この展望台へと続く唯一の階段から黒い塊が現れた。

「やぁ、ギリアム。僕が一番乗りだよ」

 真っ黒な装束を纏う大男——ギリアムへと、アセラは手を挙げて応えた。

「いつもなら俺たちが一番乗りなんだが、今日は雪でも降るか?」

 背中に担いだ大戦斧だいせんぷを朝日に閃かせ、ギリアムはカッカと笑う。

 肩口に届く波打った黒髪に鍔の折れ曲がった鍔広帽子を被り、全身を漆黒のマントで覆い隠す。身長はアセラよりも頭一つ高く、比例して横にも大きい立派な体躯を持っている。単純に太っているわけではなく、筋肉という鎧を全身に身に着けているが故だ。背中の大戦斧もその筋肉から生み出される力を余すことなく伝えられる。

「エテルネルは起きてるか? いつものように暇すぎて眠っていないか?」

『その言い方は酷いですよ、ギリアム。ちゃんと私は起きています——ところで、プレイアちゃんはどこにいるんですか? 姿が見えませんが』

 ギリアムの嘲笑にアセラの腰部からエテルネルが反論。緑柱石エメラルドを点滅させる。

「ああ……プレイアならここにいる」

 合わせられたマントの片側を払い、ギリアムの左腕に支えられるようにして眠っている白髪の少女がいた。

 長い髪は一本にまとめられ、目鼻立ちの整った端正な顔に硝子の眼鏡をかける。一枚布のような薄いシャツとプリーツスカートを身に着けるだけで他には何もない。

「エネルネルのようにはなかなか早く起きれるものじゃないからな……時間も迫っているからそのまま連れてきた」

 ギリアムがプレイアのほっぺを軽くつつく。割れ物でも扱のように慎重に。

「プレイアはいつもそんな薄着で寝ているのか……というか普段よりも薄着っぽい」

 アセラはプレイアの格好に感嘆を漏らした。

「こいつは寒さへの耐性が異常に高いんだ。隊を組むときにも説明したと思うが——」

「ああ、覚えてるから大丈夫。実際に目の当たりにすると驚いちゃうから。

 さて、とりあえずここに集合する聖騎士二人が揃ったわけだけど、今すぐ発って問題はないかい?」

 アセラは手すりの傍から離れギリアムに近付きながら言う。それにギリアムが、マントを掛けなおしながら、

「聖騎士二人……アセラ隊長と俺で、あとの一人はどうしたんだ」

 額に皺を寄せながら低い声で唸る。

「エリエなら別の場所で合流予定。僕らよりも先に起きて行動してもらってるよ」

「なるほどな……二人が来るまでプレイアを寝かしておこうと思ったんだが起こした方がよさそうだな」

 そう言ってプレイアを起こそうとする。

「向こうの行動次第で送られてくる連絡が届くまでは、ゆっくり向かえばいいさ。そういうふうに言われてる」

 一体どっちが隊長なんだ、とギリアムは呆れ笑いを浮かべ、アセラはばつが悪そうに後頭部を掻いた。

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